先回までは例文に使用された言葉にできるだけ忠実に「現代やまとことば」に置き換えることをやってみました。
ひとつずつの言葉を「現代やまとことば」で説明することになるので、直訳的にやってみてもどうしても元の文章よりも長いものになってしまいました。
(参照:「現代やまとことば」を経験する(3))
たまたま目についた文章を例文として無作為に取り上げてみた割には、いろいろな要素が含まれていましたので何回かにわたって取り上げてみることにしました。
直訳的な「現代やまとことば」への置き換えを三回ほどやってきましたが、まだピンとこない方も多いと思います。
何だか面倒くさいなと感じる方もいたのではないかと思います。
一通りの直訳が終わったところで一番簡単な方法をやってみたいと思います。
まずは例文を確認しておきましょう。
例文:
【IT技術の進展により、様々な知的資源、文化資源をデジタル化して保存、発信する「デジタルアーカイブ」が脚光を浴びています。】
今回は話し手の意図を意識して置き換えることをやってみます。
文章を書いた人の意図がありますがそれはそれをきちんと掴んでいるのかどうかは分からないことですので、わたしの受け取った意図で置き換えてみます。
これは「デジタルアーカイブ」という言葉や技術に注目してほしいというメッセージだと思います。
例文では書かれた文章になっていますので、今までの「現代やまとことば」への置き換えを参考にしながら話し言葉として意図を表現してみようと思います。
こんな伝え方ではどうでしょうか。
「デジタルアーカイブ」というものが数多く取り上げられています。
(このことばでどんなことが思い浮かぶでしょうか。)
長い間積み上げられた人の技や工夫が、いつでも使えるものとして残しておけるようになっています。
いわゆるITのお蔭ではないでしょうか。
(そんな「デジタルアーカイブ」を見てみましょう。)
例文を話しことばとして聞かされると理解しにくい理由の一つに修飾語の関係の分かりにくさがあります。
文字として書かれている場合には振り返ったり先を探したりすることができますが、話し言葉においてはその瞬間にしか聞き取ることができません。
そのために修飾関係の複雑な長い文についてはどうしても言葉同士の修飾関係が掴みにくくなります。
話しことばの時には文字にする場合に比べると、無意識でも一つの文が短くなってきます。
これは感覚的に文が長いと分かりにくくなることが分かっているからなのです。
つまりは話し言葉ではできるだけ早い段階で言葉同士の修飾関係を確定させることが行なわれているのです。
区切りのない話は内容の分かりにくいものになるのは誰もが経験していることだと思います。
したがって、文字として書き表すときであっても話し言葉を意識すると短い文となることになります。
例文も一つの文章としては決して長いものではないと思われますが、言っている内容については複数のことを一つの文章で表現しているものとなっています。
話しことばとして発せられた場合には理解しにくいものとなってきています。
「現代やまとことば」に置き換えてみた表現はどのように映りますか。
映るというよりは聞こえますかといったほうがよさそうですね。
固有名詞としての「デジタルアーカイブ」と「IT」については原文の言葉をそのまま使ってみましたが、それは私のなかでこれらの言葉がしっかりとした定義がなされていないことの表れでもあります。
とくに「IT」についてはこの言葉を使った方が自分でも理解しやすいと思ってしまうこと自体がしっかりと定義できていないことの証でもあります。
たとえばこの「IT」が「デジタル技術」となっていたところでほとんど同じ内容で理解してしまいます。
知らないうちに安易に使っている「技術」という便利な言葉も、よく考えてみるととても広範な意味を持っていると同時に自分としての定義ができていないことが分かりました。
「現代やまとことば」への置き換えには正解というものがありません。
「ひらがなことば」に対して持っている定義が一人ひとり異なっているからにほかなりませんが、他の言葉に比べれば日本語の基本語であるために一人ひとりの違いの幅がかなり狭くなっているのです。
そのためにほとんどの人が同じような感覚で受け取ることができる日本語の基本語となっているのです。
明治期以降に取り込まれた外来語や新しく生み出された言葉でも「現代やまとことば」として使えるものがあるのではないでしょうか。
「やまとことば」との違いがそこにあります。
「やまとことば」というとどうしても古語のイメージや日常語から離れた感覚を持たれると思います。
もっと気楽に日常的に使ってもらえるように「現代やまとことば」として「ひらがなことば」を提唱しています。
きっかけとしては気になった言葉を自分の持っている「ひらがなことば」で定義してみることをお薦めします。
普段何気なく頻繁に使っている言葉であっても意外とできないものですよ。
そんな言葉で話して伝えても同じ理解をしてもらえるわけがありませんよね。
身近な言葉を「ひらがなことば」で置き換えてみませんか。
一度置き換わると自信を持ってその言葉を使えるようになるから不思議です。
かりに質問されたとしてもいつでもよりわかり易く説明することができるからではないでしょうか。
そこでの「ひらがなことば」による自分の定義がきき手の人と違っていたとしても、その違いについてよりわかり易く理解できるからではないでしょうか。
同じ言葉について自分と異なった定義をしていることに触れることは一種の気づきでもあります。
思わず「なるほど」だったり、あるいは「それは違うな」であったりしますが、まずは素直にその違いに対して理解することが大切だと思われます。
「ひらがなことば」で言い換えてみることを遊んでみませんか。
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