何かを伝えようとするときの中心的な方法は言語化をしたうえで話して伝えることと書いて伝えることの二種類になります。
あるデータによれば言語化された情報について口頭によって得ているものと文字によって得ているものの比率は、口頭によるものが80%を占めているそうです。
一般的な情報を得ている方法のうち視覚によるものが80%を占めていると言われていることに比べると、言語における伝達は一般的情報の受け渡しとは異なった注意が必要となっているのではないでしょうか。
このことはそれぞれの言語が持っている特性によっても影響を受けていることでもあると思われます。
日本語を見てみた時に口頭による伝達と文字による伝達とどちらを得意としているのかを考えてみたいと思います。
まずは言語が持っている音と文字について見てみたいと思います。
音と文字が一対一で対応している言語を見たことがありますか?
日常的に使用されている言語ではおそらく存在していないと思います。
そのために人工的に生み出された言語がエスペラント語ということになるのではないでしょうか。
音と文字が一対一で対応しているということは言い換えれば発音記号ということになります。
英語にも発音記号があります。
それは一つの文字が使われ方によって複数の音を持っているから必要とされているものです。
中国語にもピンイン(併音)という音を表すために表記があります。
実は国際音声記号という発音記号が存在しています。
国際音声学会が作っているのですが、世界のあらゆる言語に対して同じ方法で発音の仕方を表記した記号文字になります。
試みとしては素晴らしいと思うのですが、それぞれの言語の持つ音をしっかりと区分して表記するためには巨大な分類体系を必要とするためにとても複雑なものとなってしまっています。
日常的に目にすることがないのは実用としては向かいないからではないでしょうか。
日本語は四種類の文字(漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベット)を持っていますが音を表すためにはひらがなを使用しています。
カタカナを使用する場合も増えてきていますが一般的に読みがなと言った場合にはひらがなになるのではないでしょうか。
音としてはひらがなもカタカナも全く同じになりますのでカタカナの音もひらがなの音と同じとして扱いたいと思います。
そうなりますと、四種類の文字に対して一種類の音を持っているのが日本語ということになります。
日本語には発音記号が存在していません。
発音記号の役割を担っているのがひらがなということになります。
そのひらがなは発音記号としては完全なものではありません。
格助詞の「は」は「ワ」と読みますし、目的地を表わす助詞の「へ」は「エ」と読んでいます。
それ以外にも同じひらがなであっても使われ方によっては音が変わるものがいくつか存在しています。
しかしその違っている音もひらがなの持っている音の中のものでありひらがなの音以外の音が存在しているわけではありません。
つまり日本語の音はひらがなの音の一種類しかないことになります。
四種類の文字種類を持ちながらもその音としてはひらがなの一種類の音しか持っていないということはどういうことを示しているのでしょうか。
文字にした時には同じ言葉であっても四種類の表記方法があり、それぞれの文字種類によって独特の感覚やイメージを持っていることになります。
感覚やイメージが同じだとしたら異なった文字種類が存在する必要がないですし実用的に歴史のどこかで淘汰されて消えていったことでしょう。
文字にすることによって文字の種類を使い分けることで同じ言葉であっても微妙なニュアンスの違いを表わしていることになります。
コピーライターなどはこの感覚が優れていないとできない仕事ですね。
ところが話し言葉にしたとたんに文字としてのこの微妙なニュアンスの違いやイメージの違いがなくなってしまうことになります。
音にした瞬間に文字の違いが消えてしまいひらがなの音だけになってしまうからです。
日本語の持っている音の数はひらがなの音の数になります。
五十音表にある清音と言われるひらがなの音は46音です。
音のバリエーションである長短や強弱、音便などは同じ音による言い方の違いとして扱うことができますので「きゃ」「ちょ」などは「きや」「ちよ」のバリエーションとして別の音としては考えないことになります。
そのようにしてみてみると濁音(が、ざ、だ、など)や半濁音(ぱ、ぷ、など)は別の音になりますので計25音を清音に加えた71音が日本語の持っている基本音ということになります。
ところが濁音の中にも「じ」「ぢ」と「ず」「づ」が同じ音ですので、日本語の持っている基本音は合計で69音になります。
言語による音数の違いはそれぞれの数え方によっても異なりますが、どの資料を見ても他の言語に比べた日本語の音数の少なさは突出したものがあります。
さらに、一般的に使われている単語だけでも10,000語を越えていると言われる日本語ではその違いを話し言葉だけから理解することはとても難しいことになります。
(参照:他の言語話者から見た日本語)
世界でも類を見ないくらい少ない音数で世界でも類を見ないくらい多くの言葉を表現していることになる日本語の口頭による情報は、理解するためにはとんでもない能力が必要になっているということではないでしょうか。
日本語の持っている文字のなかで文字自体が意味を持っているものが漢字になります。
完全ではないにしても漢字以外の文字は音を表すための表音文字であり、漢字は意味を表すための表意文字となります。
世界で現存している文字のなかで唯一の表意文字が漢字だと言われています。
表意文字は文字になって初めて意味が分かるものであり読みとしての音からは意味を理解することが難しいものとなります。
漢字は中国文化から借用したものであり、原点にあった音は中国音(呉音、唐音、漢音)です。
それが音読みとして漢字の音に充てられている音になります。
この段階での音読みには日本語としての読み(音)としての意味はありませんので音から意味を理解することは出来ません。
やがて日本語としての音に対しても同じような意味を持つ漢字が使用されるようになり、訓読みとして利用されるようになります。
音としても文字としても意味を持つ言葉になったことになります。
ところがこの音としての意味と文字としての意味が完全に一致しているわけではないのです。
一般的には文字としての意味の方が音としての意味よりもより限定された具体的な場合の方が多くなっています。
このことも文字と音の間での理解の違いを生む原因にもなっているのです。
見てきたように、日本語は世界の言語の中でも究極の文字言語ということができると思います。
それでも、言語による伝達の80%は口頭によって行なわれているのです。
文字による伝達に比べた時にどれほどの内容が欠落しているのかはしっかりと意識しておく必要があるのではないでしょうか。
大切な情報伝達については必ず文字情報を伴うことを意識しておくことも大切ですね。
口頭による情報伝達しかできない場面もたくさんあります。
そんな時にどんなことに気を付けたらいいのかもお伝えしていきたいと思います。
そうです「現代やまとことば」が一番生きてくるのがここです。
(参照:なぜ「現代やまとことば」か?)
話して伝える機会の多い人ほど知っておいてほしいですね。
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