漢字を手で書くことの大切さをお知らせしてきました。
(参照:「書くこと」が最高の表現の磨き方)
「書く」ことがキーボードを「打つ」ことに変わってしまっている現代では、紙の上にペンで文字を書く機会が激減しています。
表意文字である漢字は文字にすることによってその意味が更に鮮明になります。
また、
文字を書くことによって、その文字に関する記憶が刺激されているという研究結果もあります。
「書く」ことのメリットは計り知れないものがあるようです。
アメリカの言語教育を見てきたときに気になる言葉がありました。
「パワー・ライティング」という言葉です。
響きもよく記憶に残りましたので、すこし調べてみましたが、出版物も少なくあまりよくわかりませんでした。
「パワー・ライティング入門」(説得力のある文章を書く技術:入部明子著)がかなり詳細に述べていると思われますが、ここでは概要と日本語で使用する場合の注意点を確認しておきたいと思います。
パワー・ライティングはアメリカの小学校から行われている言語表現技術です。
その技術の根源は、陪審員制度におけるアピール技術です。
単なるアピールでは陪審員の決断を左右することができません。
事実と意見の書き分けや、根拠を踏まえて主張する表現技術が小学校から丁寧に指導されています。
その基本にあるのは、意見や主張に対しての抽象度をどんどん低くしていくことによって、共感・賛同を獲得していく手法です。
社会人として、民主主義国家の市民としての必要欠くべからざる能力として指導されているものです。
高等学校では、ディベートにおける文章作成などで磨かれていくものになりますが、指導には現役の弁護士などの司法関係者が当ることも少なくないようです。
アメリカにおける弁護士は、職業としての敬意はありますが、パワー・ライティングの具現者として敬われている面があるようです。
最もシンプルにパワー・ライティングのステップを表すと以下のようになります。
- 意見・主張をする。
- 意見・主張の根拠を挙げる。
- 意見・主張と根拠との関係を述べる。
- 客観的な裏付けを述べる。
常に、意識をして文章を書いていかないと難しいことでしょう。
特に日本語で行なう場合の注意点を述べておきます。
とにかく一文を短く表現することです。
日本語の特徴の一つに、修飾語がたくさん並べられることがあります。
余分な修飾語を省いて「何がどうした」を表記することです。
もう一つはしっかりと主語を意識することです。
ともすれば、会話の中では省略されることの多い主語ですが、まずは主語を書くことから始めるといいでしょう。
そして、主張なのか、引用なのか、事実なのかをはっきりとわかるように書くことです。
日本語は結論が最後に来ますので、最後にならないと主張なのか事実なのかの区別がつきません。
自分で、主張の時と事実の時で使う言葉を決めておくのもいい方法だと思います。
日本語では、同じことを表現するのに非常にたくさんの表現方法があります。
しかも、述べていることが意見なのか、事実なのか、引用なのかなどの区別は通常は文章の一番最後に来る述語を待たなければなりません。
特に話し言葉の場合のは、話し慣れている人は聞き手の反応を見ながら、同じことを言っても上手に最後の結論のニュアンスを変えることができます。
日本語のいいところでもあり、悪いところでもあります。
外国の言語技術やコミュニケーション技術は彼らの日常使用の母語を基準に作られているものです。
日本語は世界の言語の中でも際立って特殊な言語であって、他の言語の表現技術をそのまま持ってきても使い物にならない場合が多くなっています。
このことに気付かずに、外国発の様々な理論やテクニックをそのまま導入して、うまくいかない場面が散見されます。
ただし、パワー・ライティングは日本語が苦手とされていることを磨くにはとても良い方法だと思われます。
文学的な美しい文章とは対照的な、実務的な論理を伝える文章の書き方としては、シンプルで分り易いテクニックだと思います。
分り易い4つのステップは、今自分がどのステップを行っているのかを確認するためにもとてもよい物差しだと思います。
4つのステップを意識して書くだけでも、文章が違ってきますよ。