「きく」という動詞を漢字で書いて挙げてくださいと言われたら、いくつ書けますか。
PCの日本語変換でも五つは出てくると思います。
その中で、いわゆる聞くとは正反対の意味の「きく」があることに気づかけれたでしょうか。
そうです、「訊く」の音は「きく」ですが、その意味するところは、話すことになります。
訊問などという熟語でもよく使われますね。
他の「きく」である、聞く、聴く、利く、効くには少なくとも、正反対の話すという意味は含まれていません。
「訊く」はもう一つの音読みとして「たずねる(訊ねる)」という音を持っています。
まさしく言葉を持って、相手に話しかけることです。
なぜこのような「きく」があるのでしょうか。
「きく」の音そのものは、かなり基本的な動作を表す言葉であり、「古代やまとことば」にもあった言葉だと思われます。
その頃に使われていた「きく」の感覚は、のちに漢字で表現されるようになった時に、聞く、聴くなどにより具体化して細分化されていったのだと思われます。
もともとも「きく」が持っていた感覚が、具体化されたものが漢字の訓読み動詞の五つの「きく」だと思われます。
現在では「きく」というと、一般的には「聞く」を意味します。
少し意思を込めた凝った見方をした時に「聴く」が出てくる程度ではないでしょうか。
「利く」や「効く」は熟語としては頻繁に登場しますが、「きく」という音に対してはなかなか思い浮かばない漢字です。
ましてや、ほぼ正反対のことを意味する「訊く」は簡単には思い浮かびません。
「古代やまとことば」における音としての「きく」は、今の私たちが漢字で表現できる「きく」のすべての内容を含んでいたものと考えられます。
これらの五つの漢字を眺めた時に、目的としてどんな行為を思い浮かべることができるでしょうか。
ヒントになるのは、「利く」「効く」「訊く」の三つですね。
現代訓読み漢字で同じ音を持つ者は、もともとは一つの言葉として共通する感覚を持っていたものであると思われます。
そう考えると「きく」という動作は、どの漢字を見ても相手のことを理解しようとする行為であることが分かります。
五つの漢字で表せた行為をすることによって、相手を理解することが「きく」と言う行為であったのではないでしょうか。
「古代やまとことば」のなかでも基本的な動作を示す言葉は、ほとんどの場合同じようなことが言えそうです。
「かく」という動作があります。
漢字を使って書き出してみると、「書く」「描く」「画く」「掻く」「欠く」などが出てきます。
ここでのヒントは、最後の二つですね。
最初の三つは、「かく」対象によって具体的な使い分けをしたものですが、最後の二つについては行為そのものが異なっていますね。
「古代やまとことば」としての「かく」という基本動作を示す動詞には、「掻く」や「欠く」の感覚までを含んだものとなっていたことが伺えます。
漢字の音読みを使った熟語では、同音異義語をあつめてもあまり面白いものにはなりませんが、訓読み漢字で動詞になっているものの同音語を集めると、その音が本来持っていた感覚を知る手掛かりになるようです。
日本語がもとから持っている感覚を知るきっかけになるといいですね。