2016年7月27日水曜日

日本語で伝えるための技術(1)

母語として日本語を持っていることによって、日本語で伝える技術については意識をしなくともある程度身についてしまっていることになります。

そのために特に日本語で伝えるということを意識しなくとも日常的な言語伝達において困っているとはあまり感じることがないのではないでしょうか。

ところが、伝わっていると思っていたことが実際には伝わっていなかったり思っているのとは違った伝わり方をしていることは以外とあることです。

そのことに気がつかないのは、伝わった内容についての確認を一つひとつ行なっていないことによるものです。

たいして長くもない内容について数人で行なう伝言ゲームは、経験したことがあるのではないでしょうか。
想像もできないくらいおかしな伝わり方をしていることも少なくないと思います。


伝えるための二大手法は書くことと話すことです。

日本語が四種類の文字を持ちながら一種類の音しか持っていないことは前にも確認してきました。
(参照:四種の文字と一種の音

つまり、文字の使い分けによる意味や感覚の違いは話し言葉では表現できないことになります。

読み方が同じであれば話し言葉としては一つのものとして同じになってしまうのです。

他の言語で複数の表記文字を持っているものは数えるほどしかありませんし、日常的に使用する表現で複数文字を混用して使い分けしている言語は日本語だけだと思います。

それだけに話し言葉よりも文字として視覚に頼ることが多い言語となっていることになります。


ところが人が得ている言語情報はおよそ80%を話し言葉から得ていると言われています。

言語以外の一般的な情報についてはおよそ80%を視覚から得ていることに比べるとほとんど視覚情報に頼ることができない状況であると言えます。
(参照:言語情報は耳から

日本語を伝えるための技術として最も有効なものは伝えたい内容を文字で表記することになるのですが、ほとんどの場面ではそれが不可能であることを示していることになります。


したがって、日本語で伝えるための技術を考えるときには文字によるサポートができないことを前提として話し言葉による伝え方で考えることが必要になってきます。

仮に文字によるサポートが可能な場面があったとしたら、それはラッキーとして捉えて積極的にうまく活用すべき状況であるといえます。

他の言語と比べた時に日本語は一段と視覚情報と聴覚情報の差が大きなものとなっていることになります。


実際に言葉を理解している内容を見てみると音で理解していることよりも文字として理解していることのほうが多いことが分かるのではないでしょうか。

特に、漢字によって意味を理解している言葉については同じ音を持った言葉(同音異義語)が存在していることが多いために文字の違いで意味の違いを理解していることになります。

また、漢字自体が意味を持った文字(表意文字)であるために音(読み)よりは文字のほうが意味が伝わりやすくなっています。

同じ漢字であっても訓読みの場合はもともと日本語にあった意味を持った音の「ことば」となっているために音だけでも意味を理解することができますが、音読みの場合は音としての読みには日本語としての意味がありませんのでどうしても文字による意味の確認を必要としているのです。


話し言葉だけで音読み漢字の言葉を理解するためにはその言葉を限定するための独特の使われ方やその言葉を説明するための言葉が必要となっているのです。

文字としての確認が可能な場合はその言葉だけを見せれば理解できるのですが、話し言葉の場合はさらなる説明が必要になってくることになります。

これをさぼるときちんと伝わらないことが増えていくことになります。

同音異義語がある場合だけではなく日本語として意味ある言葉となっていない音読みについても理解しにくい音となっていることになります。


以前に見てきたように日本語が持っている音は「ひらがなの音」になります。
(参照:日本語で話していること

ひらがなもカタカナも全く同じ音となっていますので話し言葉では文字の違いがまったくなくなってしまいます。

漢字やアルファベット(ローマ字)にしてもその読み方については仮名で表記して音を表しています。

音として声に出した瞬間には「ひらがなの音」になってしまうことになります。


文字によって言葉の違いや意味の違いを理解していることが多い日本語において、実際の言語伝達はほとんどが話し言葉で行なわれている事実を踏まえて伝えるための技術を考えていきたいと思います。

一般的な言語を伝えるためのテクニックではなく日本語の特徴を確認しながら、日本語のための話して伝えるために必要な技術に特化して触れていきたいと思います。


最初の特徴はすでにキーワードとしても登場している「ひらがなの音」です。

どんな文字を使用したとしても日本語の話し言葉はすべて「ひらがなの音」として伝わります。

聞き手は「ひらがなの音」を確認することで言葉として理解することになります。


つまりは「ひらがなの音」がきちんと伝わらないと言葉として認識してもらうことができないことになります。

「ひらがなの音」をきちんと聞き分けてもらえるための話し方が必要になります。

他の言語話者が感じる日本語の聞こえ方は、低い音で単純なリズムで「ダッダッダッダ」といった太鼓をたたいているような音のようです。

言語の持っている周波数が低いことや抑揚(アクセント)があまりないことがこのような印象を与えているのではないかと思われます。
(参照:周波数から見てみた言語

それだけに言葉としての音のくくりが掴みにくく一音ずつがはっきりとしないととても分かりにくいものとなるようです。


そのためには、一音ずつをはっきりと発音する必要があるのですがボイストレーニングなどをやらなくてもできる方法がありますのでご紹介しておきたいと思います。

ライブのリハーサルなどで実際に私がやっており効果を実感している方法です。


母音である「あいうえお」だけでリハーサルを行なっているのです。

ひらがなは「ん」を除けばすべて母音で終わっている音ばかりです。

終わりの母音をしっかりと発することで音としてのキレができるのです。

歌詞を母音だけで歌ってリハーサルすると本番の歌がとても伝わりやすくなります。


すべての音が母音の形の口で終わり母音の音で終わりますので、母音だけで練習しておくととても切れの良い「ひらがなの音」として伝わるようになります。

母音は声帯をしっかりと使って喉から音を出さないと伝わりません。

子音は息の音ですのでほとんど声帯を使うことがありません。

音としての母音をしっかり出せるようにしておけば「ひらがなの音」はすべて伝わりやすくなるのです。


同じ母音でも特に奥のほうから音を出すことになる「う」「お」についてはしっかりとリハーサルをしたほうがいいと思います。

「いえあおう」の順番で音が奥になっているようですので、同じ音量のつもりでもどうしても「う」や「お」は伝わりにくくなってしまい間違いやすくなってしまうようです。


あまりにも単純なことでがっかりされたかもしれませんが、伝えているものが「ひらがなの音」であることが分かって初めて意味があるものとなっていると思います。

次回は、効果的に伝えるための言葉についての技術を見てみたいと思います。



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