2015年3月6日金曜日

日本語のチカラを生かした交渉(1)

日本語が日本語であることだけで持っている基本的な感覚があります。

それは、世界の他の言語と比べた時により鮮明になってきます。

その一番の理由は、日本語が他の言語のどの系統にも属していない、孤立した言語となっているからです。


アルファベットを使用している言語は、その源をたどっていけば同じところに行き着きます。

言語としての成り立ちを共有していることになり、言語が持っている基本的な感覚としては似たようなものになってます。

ところが日本語については、文字言語としての起源が漢語にあることは間違いありませんが、漢語が導入される以前に文字のない言語としての原始日本語(古代やまとことば)が存在していたことは間違いのないことだと思われます。

その古代やまとことばを表記する文字言語として漢語をうまく利用したものだということができます。


そこでは一部では漢語をそのまま音も意味も取り込んだものもあれば、日本流にアレンジしたものもたくさんあります。

その変化がはっきりと形として現れたものが、漢字と仮名の混合文(和漢混淆文)だと思われます。

時代で言えば、鎌倉末期と言えるのではないでしょうか。


この時代であっても漢語の漢文は存在していますが、使用される分野が限られたものとなっており、和漢混淆文が主流となっていきます。

漢語としての音読みは名詞としてのものに集約されていき、もともとあった日本語の読みに対して使われる漢字は訓読みとして使われるものが多くなってきています。

表記するための文字としては漢語を利用して仮名を生み出しましたが、音としての日本語は文字のない時代からの古代やまとことばが基本となっていると思われます。


日本語が持っている基本的な感覚については、何回かにわたって集中的に見たりしてきました。
(参照:日本語の感覚に迫る

その中でも特に、交渉の場面で生かされる感覚について見てみたいと思います。


欧米型言語による交渉とは、交渉のスタイルそのものが異なるものとなりますので、日本語の感覚を知らずに日本語を使いながらも欧米型言語の感覚で交渉をするとうまくいかなくなるものです。

その一番の違いは、交渉ごとの論点にあります。

欧米型言語の感覚による交渉は、条件交渉です。

出し合った条件のなかで、お互いの妥結点を見出して合意していく形となります。


彼らは欲しい条件をストレートにぶつけてきます。

そして、自らの論理においてその正当性を主張して説得することによって、条件を勝ち取ろうとするものです。

それぞれの提示する条件に開きがあるという状況が交渉のスタートになりますので、それぞれが自分たちの利が少しでも大きくなる条件で合意にこぎつけようとします。

そのための条件の修正や歩み寄りが交渉の中心となります。

そこでのやり取りや論理の展開、説得の手腕が交渉としての能力となります。


そのためには、交渉の当事者に条件を調整できる権限と決定権がなければなりません。

調整の幅のない条件をぶつけ合っても何の進展もないからです。

持って帰って検討して条件が変わるならば、変えられる者が交渉の場にいろという感覚になるのは当たり前のことなのです。

このスタイルそのものが日本語の感覚に合わないのです。


一番初めに対立の構図をきっちりと作り上げて、対立している内容を何らかの形で合意に持っていくことが交渉になります。

日本語の感覚では、一度できてしまった対立を解消することがとても難しくなります。

彼らは、一つ一つの条件についての対立は当たり前のものとして、粛々と対処していくことができますが、日本語の感覚ではいったん対立の構図が出来上がってしまうと全面対立としての感覚となってしまうのです。


条件の対立は明確にしないと合意点が見出せませんので、避けることは出来ません。

その対立を一つひとつ対立のまま、他の影響することなく扱えるのが彼らの言語の感覚なのです。

交渉の席では、激しいやり取りをしていても、食事の場では一切そのことを引きずることなく人対人の会話ができるのを見ればよく分かるのではないでしょうか。


日本語の感覚では、とても難しいことになります。

一つの対立は全面対立になりやすく、あらゆる場面に影響してきます。

激しくやりあって合意ができなかった交渉の後で、一緒に食事をしても気まずい雰囲気になるものです。


日本語の感覚生かした交渉は、共同解決の形を作ることになります。

確認できた対立に対して、相手の環境や立場からしたらそのような条件にしたいのだろうと理解をすることが一番重要になります。

そして、ありたい姿のためにはそのことしか条件がないのかどうかを一緒に検討するというスタンスを見せるのです。

絶対的な全面対決の状況を作らないようにすることです。


そのためには、相手の条件に対して、その目的を確認することで理解を示すことです。

対立している条件が、どうしても譲れない条件であればあるほど大切なことになります。

そして一言、「なるほど、その目的であれば出されている条件も分かりますね。」的な、多少理解できたというニュアンスを伝えることが大事になります。


こじれる交渉は、どんどん細かな条件の取り合いになっていきます。

交渉ごとの最初は、どんなことでもまず合意を一つ取ってしまうことです。

欧米型言語の感覚ではこれは得意なことですので、よく使われるのが交渉の期限としての合意を取ってしまうことです。

それによって、どんなに条件が合わなく激しいやり取りになったとしても、その期限までは交渉を続けて条件を出し合うということになるからです。

期限の合意ということであっても、一つでも合意ができたという雰囲気はとても重要なものとなります。

全面的な対立を回避するためにとても有効な方法です。


これはそのまま日本語の感覚でも利用できることです。

特に日本語の感覚においては、交渉の場に決定権者がいないことが多いので、持ち帰ることが多くなります。

期限を決めておけば、その間に持ち帰ることも許容できることになります。


対立を扱うことが下手な日本語の感覚では、共に解決に向かって協力するというニュアンスが大切になります。

個別の条件で折り合いがつかない場合には目的を確認して、その目的のために協力をするという姿勢を見せることです。

本当に目的に合うものであれば、対象となっている条件でなくともいいことになるからです。


交渉が煮詰まると、個別条件のぶつけ合いになりますので、どうしても対立の構図から抜け出せなくなります。

目的がかなうのであれば、テーブルの上の条件がどちらでもよくなってしまう場面は驚くほどたくさんあります。

交渉の上手な人はここが大変うまくできています。


結果として環境と見方を変えて、より目的にかなうように見せることによって、提示された条件を無くてもよいものとしてしまうのです。

悪い言葉で言えば、話のすり替えです。

しかし、結果として目的にかなえばいいのですから、合意に至らない理由がなくなってしまうのです。


個別の条件で合わない場合にどうしても相手の条件を否定してしまいがちになります。

その時こそ、目的を確認するチャンスなのです。

簡単です、「なぜ」でいいのです。

相手は説明しなければならなくなるのです。

これを、相手を持ち上げながらやるだけのことで、交渉が本当に楽になるのです。


日本語の感覚に逆らった交渉は大変疲れますし、ストレスの蓄積になります。

日本語の感覚に素直に沿った交渉は、傍からは交渉と見えないかもしれません。

それが日本語のチカラを生かした交渉となるのです。

また、機会があると思いますので、日本語のチカラを生かした交渉に触れていきたいと思います。


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