2015年3月26日木曜日

日本語による知的活動

知的活動のなかで、一番日本語の特徴を生かしたものはブレイン・ストーミング(ブレスト)ではないでしょうか。

集団思考、集団発想とも呼ばれるこの手法は、イギリスで生み出されたものとされています。

そうはいっても、生み出される以前から自然発生的に行われていたことを、あらためて効率の良いアイデア出しの方法として名称を付けたものです。


現実には言語として表現された他人のアイデアをきっかけとして利用し合いながら、発想の連鎖を広げていくことになります。

その場合の言語表現は文字として書かれたものである場合もあれば、口頭だけの場合もあります。

日本語の特性から言えば、口頭表現と文字表現の両方を使うことが理想となります。

それも、ポストイットのような小さなものに書き出すのではなく、参加者全員が自席からでもはっきりと見えるように書き出されることが必要になります。


ブレストの効果は、使用されている言語の種類によって大きく変わります。

日本語がブレストに向いている理由をいくつか挙げてみましょう。

  • 言語として持っている言葉の量が豊富である。
  • 表意文字の漢字を使用しており、文字そのものに意味がある。
  • 同じ音や似たような音を持つ言葉がたくさん存在する。
  • 表記する文字の種類が複数ある。

どの特徴を取ってみても、言葉から発想を広げるにはとても有効なものとなっています。

では、どのようなブレストの方法がこれらの日本語の特徴を生かすの向いているのでしょうか。


まずは参加人数です。

これは日本語に限ったことではありません。

小集団の研究家であったRFベイルズらの研究によれば、4人までに集団においては一番話を多くする人と一番話をしない人との話している時間の差がそれほどないのに対して、5人以上の集団では一番話さない人の時間が極端に減ってくる傾向が出てくるとされています。

4人までの集団であれば全員が同じような発言量を確保できるのに対して、5人以上の集団になるとほとんど発言をしない人が出てくることになります。

しかも5人以上いくら増えても一番発言量の少ない人の時間は、全体の発言量のなかで5%程度で変わらないということです。

全員参加の発言を求める集団活動は、4人までとするのが理想のようです。

5人以上の集団になると、よほど意識をしない限りはほとんど発言をしない人が出てくることになるようです。


実際の活動では、板書役がいることが多いではないでしょうか。

板書役は、進行役も兼ねていることもあるでしょうし、どうしても発言量は限られてしまいますので発言者としての人数には入れなくても大丈夫です。

もちろん板書役も意見を出しても構いませんが、板書そのものもかなりの知的活動ですのでどうしても発言量は少なくなってしまうことになります。

板書役がいる場合には5人という集団でも発言量のばらつきは少ないことになると思われます。


次は、単語でブレストを行なうことです。

文章にするとそこには論理が入ってきてしまいます。

論理は関係性を表しますので、せっかく使われた単語の解釈を限定してしまいます。

ブレストは発想やアイデア出しのために量を求める活動ですので、できるだけ限定されるものを外すことが必要になってきます。


漢字の熟語で書かれた単語には、単語そのものが持つ意味もありますがそれぞれの単独の漢字が持つ意味もあります。

連鎖発想のためにきっかけとなるものがたくさんあるのです。

これは言葉の音だけではとらえられないきっかけとなります。


どうしても文章になるときは、「何がなんだ」と簡潔に、しかも誰が聞いても読んでも同じ解釈ができるように表現することが必要です。

動詞があることによって言葉そのものがかなり制約を受けますので、できるだけ単語だけで行なうことが効果的になります。


もう一つは、参加するための準備です。

ブレストのやり方によっては、準備をせずにその場でテーマを決めていきなり発言を始めることがありますが、決して効果はよくありません。

事前にテーマを確認して、参加者一人ひとりが自分でブレストをしておく必要があります。

書き出しておくのです。

テーマにもよりますが、できれば最低20分は集中して書き出します。


当然5分もすれば、書き出す手が止まって来ることになります。

ネタが尽きてくるわけです。

ここであきらめないことが大切です。

今まで自分が書き出したものから広げたり、新たに視点を変えたりしながら20分間は絞り出し続けるのです。

結論から言いますと、最終的に利用できることになるネタは、すらすらと書きだされた初めのものにはありません。

実際に役に立つネタは、無理やりひねり出したものの中にあることがほとんどです。


その状態のものを持ち寄って行なうブレストが、思わなかったような効果を生み出します。

事前の作業が不可能な場合は、ブレストの初めに参加者全員で一斉にやることもできるのではないでしょうか。

この準備をしないで行なうブレストからは、ほとんど既存の枠から離れることは出来ません。

新しいアイデアを求めて行なう活動としては、決してその目的にふさわしいものとはならないのです。


この準備の段階ですでに、参加者においては発想が広がるための準備活動ができていることになります。

そこに、他者からきっかけとなる言葉が放り込まれることになるわけですから、一気に広がることになります。


テーマが決まっていて、事前に準備ができている場合は、会話だけのブレストでも思った以上の効果が上がります。

例え二人で行なったとしても、思っている以上の効果を得られることでしょう。


日本語の持っている特徴は、ブレストにはとてもよく合うことになっています。

せっかくの日本語ですから、より効果的になるようなブレストを行なってみてはいかがでしょうか。