現代日本語の母音は5つあります。
「あ、い、う、え、お」の5つですが、昔は8つあったといわれています。
記憶にある限りでは、「ゐ」と「ゑ」も母音だったと思われますが、もう一つが記憶にありません。
「いろは」四十七文字には「ゐ」と「ゑ」が含まれていますが「ん」は含まれていません。
「ゐ」と「ゑ」の音は今では「い」と「え」と同じことになっていますが、昔は違ったはずですね。
わざわざ違ったかな文字をもっているくらいですから、きちんと区別されていたはずです。
現代語にはその音は残っていません。
日本語では「ん」を除いてすべての音が母音で終わります。
母音の発音が悪いと言葉自体が聞き取りにくくなります。
口の周りの筋肉が衰えてくると、思った以上に聞き取りにくくなってきますので気をつけたいですね。
5つの母音は口の中で発せられる場所が異なります。
発せられる場所によっては、口から出てくるまでにかき消されてしまうこともありますので、それぞれの音の特徴をつかんでおくことは役に立つことだと思います。
このことを教えてくれたのが井上ひさしさんです。
井上さんは初めは小説家志望でしたが、学生時代に大江健三郎さんの作品に出合い、小説は大江さんに任せたとして劇作家へ転身したそうです。
舞台での脚本を数多く手掛けていく中で、母音の違いによる言葉の伝わり方の違いに気が着いたそうです。
5つの母音が発せられる場所は口の先のほうから順番に「い、え、あ、お、う」となります。
「い」は口の先の歯のあたりから発せられて、すぐ外に出ますのでとてもはっきりと伝わる音です。
「う」は口の奥の喉の方から発せられて、しばらく口の中を通ってから外に出ますので、「い」と同じ音量で発せられると口を出る時点でかなり小さくなってしまい、伝わりにくくなります。
三菱銀行と住友銀行で音を比べてみてください。
三菱= MI TSU BI SHI となって4音のうち3つも「い」の母音があります。特に初めの音が「い」音になっていることが大事です。
住友= SU MI TO MO となって「う」の音から始まります。
なるべく大きな声で発音すると分かると思いますが、三菱はかなり離れてもしっかりと「ミツビシ」と聞き取るができます。
しかし、住友は少し離れると「・ミトモ」となって「ス」の音が聞き取れなくなります。
劇場のようなところであれば後ろの席では、より明白になります。
井上ひさしさんは作中の銀行は三菱銀行を頻繁に用いたそうですが、東京三菱になった時には困ったそうです。
母音の特徴として音としてのイメージがあります。
口の先で発する「い」には明るくて軽快なイメージがあります。
反対に一番奥から発せられる「う」には重厚な重苦しいイメージがあります。
腹の底から呻いている感じですね。
苦しい時に発する「う~」という音は腹の中から絞り出している感じですよね、苦しいときに「い~」とは言えませんよね。
芝居や朗読の上手い役者さんは、「う」の母音の出し方が上手いですね。
言葉の最初の音としての「う」母音の出し方が上手いです。
他の音の時よりも大きめに力強く発していることが多いと思います。
経験的に伝わりにくい音がわかっているのでしょうね。
「う」の母音が伝わりにくいことを知っているだけで、発し方や受け取り方が変わってくるかもしれないです。
きちんと伝えるためには、音も大切な要素ですね。