2013年8月18日日曜日

国語教育の問題について(1)

みずからは小学校において「ゆとり教育」時代の国語の先生を経験し、その後は大学において小学校の国語教育に携わる学生を指導している、坂本芳明先生の国語教育についての論文に触れる機会を得ました。

大学で教えている学生が、小学校時代教えた生徒と時代的に被ることもあり、大変興味をもって読むことができました。

その中のいくつかを取り上げたいと思います。


ピーター・フランクルという数学者がいます。

数学の楽しみや、教育についてあちこちで講演をされているのでご存知の人も多いと思います。
12カ国語を操り、もちろん巧みな日本語で講演をします。
ジャグリングしながら登場したりする、あの陽気な数学の天才です。

彼が日本語で講演をしている中で、母語であるハンガリー語に話がおよび、ハンガリー語で詩を朗読した時のことです。

ほとんどの聴衆は意味が分かりません、もちろん日本語で意味の補足はしていますが。

聴衆の間に感動が広がり、会場は水を打ったように静かになってしまったそうです。


一番驚いたのが、ピーター・フランクル本人で、改めて自分の心の奥深くにある微妙で繊細な表現は母語にはかなわないと気付かされたそうです。

彼は高度な数学的問題を考えるときは、常に母語であるハンガリー語で考えていることを気づいていたそうです。


ピーター・フランクルの例を出しながら坂本先生は「文章表現力」と「コミュニケーション能力」が国語教育の目的だと述べています。

「表現したい、伝えたい」という強い思いを「適切な方法で表現できた」という達成感を伴って成し遂げたときに、その力が確かなものになっていくと言っています。


その中で、日々接している学生たちに対しての調査結果で、以下のように推察しています。

学生がこれまで学んできたであろう適切に表現する基礎的な技能や知識は脆弱であり、かつ、生活の中で十分に機能していないのではないか。

何よりも「自分が、誰に何を伝えたいか」という相手意識や目的意識が弱い。

「私は、こう感じ、こう考えた。どう伝えたら、よく分かってもらえるだろう。問題点について、友だちと話し合い、さらに考えを深めよう。」という、主体的で探究的な学習の積み重ねが極めて少なかったことにも一因があると思われる。


平成14 年2 月、文部科学大臣が文化審議会に「これからの時代に求められる国語力について」を諮問した主旨が示されています。

「日本人は国語力、すなわち日本人として自分の母語である日本語の運用能力、日本国内に留まった国語力ではなく、世界の各国の人々と交流できる言葉の力(言語力)として日本語の能力を充実する必要がある。
国際化、情報化の時代・社会に必要な言葉の力を身に付けることが急務である。」


ここから展開されている坂本先生の論理は、まさしく私が言いたいことそのものです。

できる限る原文に沿って載せさせていただきます。


母語の基礎を固めずして外国語の言語能力の向上はありえません。

「何を、どのように伝えるか」という基本的な言語表現能力は、日本語であれ、外国語であれ、共通するものです。

情報を処理し、伝達する言語能力の向上は、日本語、外国語を問わず、いくら強調されてもよいものです。

しかし、それぞれの国の言語には、それぞれの国の文化が背景にあります。

国際化時代への対応を叫ぶ余り、性急に「日本語」を「英語」に置き換えてはいけないのでしょう。

外国語を学ぶということは、その国の社会や文化を学ぶことでもあります。

しかも学んだことが、今を生きる私たちのものの見方や感じ方、考え方に反映してこそ学習の意味が出てくるのである。

今回の指導要領の改訂で古典の指導が重視されたねらいはここにあります。

その意味で、言語能力の向上が現下の課題であるとしても、人間教育の基盤となる国語教育の担う範疇は深くて広いといえよう。

幼児や児童の感情の揺れ動きは我々の想像をはるかに超えています。

そんな子どもに寄り添い、思いを受け止め、適切な言語表現へと導く責任があります。

子どもの成長は、確かで豊かな言葉の獲得とともにあります。

まずもって、教育者自身が日本語に敏感であるよう努力し続けなければならない、そう思うからである。


最後の一文は教育者を親と置き換えたほうが現実的かもしれません。

幼児期における母語教育をベースとした国語教育は、人間そのものを形成し、その後の生き方まで大きく左右してしまいます。

言い方を変えれば、可能性は無限大にあるということです。

少なくとも選択の幅を狭めてしまうようなことさえしなければ、自力で考え道を開いていく力を身につける場は今後は増えてきそうです。


何回かにわたって坂本先生の実体験に基づく意見をご紹介していきたいと思います。


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