敬語、中でも丁寧語や美化語を作るのに簡単な方法として言葉の頭に接頭辞として「お」や「ご」を付けることがあります。
日本語になじみの薄い外国人の人にとっては日本語の敬語は大変難しく使いにくいものです、「お」や「ご」を付ければ敬語になることでその実用性は高くなっています。
しかし、いざ使うときに母語としての日本語の感性を持たない彼らは、付けるべきものが「お」なのか「ご」なのかで大変迷うようです。
一般的には、漢語には「ご」を付けて和語には「お」を付けると教えるそうですが、それだけではあまりにも多くの例外が存在します。
この教え方のもとには、文化庁が文化審議会の答申として発表した「敬語の指針」(平成19年2月)があります。
漢語だ和語だといっても表記はともに漢字でされているので見た目の区別はつきません。
そこで次のように言われることもあります。
漢字で表現されるもので音読みで始まるもののは「ご」がつき、それ以外(訓読みやひらがなで始まるもの)は「お」で始まる。
例:ご住所、お住まい
ところがこれにはまらない例外が多数あります。
例外が多数あると例外とは言えないと思いますが・・・
漢語だが「お」がつく例:お礼状、お時間、お加減、お元気、お電話、お食事、お勉強、お化粧、など
和語だが「ご」がつく例:ご入用、ごゆっくり、ごもっとも、など
そこで、この例外のみについて触れた堀尾佳似氏による価値ある論文「御(お)と御(ご)の統語的特徴」をもとに見ていき、できる限りの規則性を見つけたいと思います。
氏はそれまでの「お」と「ご」についての研究を以下のように評価しており、その立ち位置がとても共感できるところです。
先行研究をまとめた結果、以下のような問題点が挙げられる。
問題①ルールからの逸脱は「例外」である
「和語には『お』漢語には『ご』を付ける」基本のルールから逸脱するものについて「例外」という以外には言及しておらず、分析されていない。これまで「例外」とされてきたものは本当に「例外」なのだろうか。
問題②形容詞・形容動詞に付かない
「ご=形容詞・形容動詞には付かない」とあるが、実際には「ご親切」「ご丁寧」という語彙があることから、適切な分析であるとは言えない。また、他の品詞については説明が無い。
問題③和語・漢語と「お」・「ご」の関わり
「和語」・「漢語」と「お」・「ご」の関係について述べられているものは殆ど無い。
まず一番例外が多いものは漢語(音読み)だが頭に「お」がつくものです。
これは上記の例以外にも、少し考えただけでぽろぽろ出てきます。
これでは例外として扱うわけにはいかないと思われます。
今まではその例外を規定するにも「日本語になじんだ漢語」であれば「お」を付けることもあると、きわめてあいまいな基準で一部の例外を説明しています。
堀尾氏はここをズバリと指摘し「日本語になじんだ漢字」とはあまりも基準として曖昧すぎると指摘しています。
そして自身で「お」のつく漢語(音読み漢字)を集めて検証するという、きわめて実践的な手法を取りました。
お肉、お茶、お盆、お菓子、お料理、お布施、お賽銭、お便所、上記の例以外にも数えきれないほど存在します。
ここで堀尾氏は大胆な仮説を立てます。
「漢語であってもモノ(具体的な名詞)については「お」がつく」と仮定して「お」が着く漢字を集めます。
サンプル例としてモノを表し「お」が着く言葉を113語を集めて検討します。
その結果、「お」の後ろにつく付く漢字の種類を以下のように区分しました。
和語 ・・・47%
漢語 ・・・38%
混在語 ・・・10%
外来語 ・・・5%
大前提である「漢語については「ご」がつく」から外れるものだけで38%では、もはや例外と言えるものではありません。
それよりも新しい規則性として、「漢語(音読み漢字)であってもモノを表す場合は「ご」ではなく「お」がつく。」が成り立つのではないのでしょうか。
モノとして現実に触れていることによって、「日本語になじんだ漢字」と言う表現に含まれることになるのかもしれません。
しかし、現実の規則性としてはモノを表す漢字(言葉)としたほうがはるかに具体性があり、規則性としての表現にふさわしいものと思われます。
「お」と「ご」についてはこのあとも次回に、和語に対して「ご」が使わる場合や、「お」と「ご」の両方が使われる場合などを見ていきながら、敬語の場面ではないのにわざと使われる敬語表現などを
考えていきたいと思います。