先回は規則性としてモノについての言葉は漢語も和語も関係なく「お」がつくことが多いというものを見つけました。
今回も、大前提の「漢語(音読み)には「ご」が、和語(訓読み)には「お」がつく。」ということの例外からも見ていきたいと思います。
まずは、和語について「ご」が着く場合です。
実はこの例はきわめて少なくて、実際に取り上げた研究例でも「ごゆっくり」「ごもっとも」「ご親切」「ご盛ん」程度しかありません。
この中でも「ご盛ん」は「お盛ん」もある、どちらも使う言葉と言えると思います。
また、「ご親切」も音読みであるため大前提に反するものではないと言えます。
特に副詞について限定したものがあり、それによれば「お」が4つ「ご」が2つで合計で6つしか取り挙げられていません。
おあいにくさま・おいくつ・おいくら・おひとつ・おまけに・おたがい・ごもっとも・ごゆっくりの6つですが、「おまけに」は「まけに」と言うもとになる言葉が存在するのかどうか怪しいと思われます。
むしろ「おまけ」が副詞になったものであり、もともと「お」から始まる言葉としてこの対象からは外すべきと思われます。
それ以外の「ご」+和語のものはほとんど見受けられないようです。
ここまで見てきて、モノには「お」がつくのではないかと言う仮説を立てた堀尾氏は以下の結論を導いています。
・これまで例外とされてきた漢語に「お」を付けるのは、例外なのではなく、「『モノ』には『お』を付ける」というルールがある。
ただし、祭礼・金銭関係の一部の漢語には基本ルールにより「ご」が付くものもある。
・「お」の付くモノについて、そのモノの所有者は、話し手以外であり、聞き手や第三者の所有するものである場合が多い。
食器に関しては、話し手の物であっても使用することができる。
これはつまり、食器には丁寧の「お」が付けられ、それ以外のモノには、聞き手や所有者に対する尊敬の「お」が付けられている、ということである。
・金銭に関連する場合、お金そのものだけでなくやりとり(給料など)にも「お」を付ける。
「お」と「ご」について、「〔和語には『お』漢語には『ご』を付ける〕という基本のルールを逸脱している」と考えられてきた語彙にも、実はルールがあった、という事が本研究で明らかになったと考える。
この成果を踏まえ、基本的に和語には「お」、漢語には「ご」をつける。
モノの語彙の場合は「お」が付けられるが、規則からの逸脱ではない。
とすればよいのではないだろうか。
これからは、日本語教育であれ、国語科教育であれ、「なぜ『お電話』は『お』なのか?」という疑問にぶつかった時には、言語学的に証明した、【モノ】に付ける「お」であると説明することができる。
私の知る限り「お」と「ご」については一番的を得た分析ではないかと思っています。
さらにつづけて「お」も「ご」もどちらもつく言葉についても考察されています。
例として挙げられているのは以下のものがあります。
ご返事/お返事、ご都合/お都合、ご利息/お利息、ご通知/お通知、ご会計/お会計、
ご受検/お受験、ご入学・お入学、ご葬儀/お葬儀、ご年賀/お年賀、ご年始/お年始、
ご祝辞/お祝辞、ご祝儀/お祝儀、ご香典/お香典、ご位牌/お位牌、ご病気/お病気 など
どうも比較的新しい言葉ばかりの様です。
そこら辺りにも両方使われる言葉の特徴がありそうです。
もともと堅苦しい書き言葉として「御」を付けていたものを、口語としての話し言葉や女性が口にするときに「お」のほうが優しく響くことなどから使われるようになったと思われます。
両端をそれぞれ「ご」と「お」としたときに、これらの語は真ん中に位置するわけではありません。
極端にどちらかに寄っているわけではないという程度のものもあります。
もとの言葉が儀礼的で堅苦しい「御」がついているものであるほど、今後も両方使われる言葉は増えてくると思われます。
最後にひとつ、形は敬語だが使い勝手は敬語ではなく嫌味として使う例を挙げておきます。
御前(おんまえ)、御前(ごぜん)、お前、おまえ
「ご」も「お」もついていますが、もともと尊敬語であったものが丁寧語として使われる様になったものです。
最後のひらがなの「おまえ」になると相手を非難・侮辱する言葉となり、もはや敬語の領域ではなくなります。
このように本来は敬語の表現ですが、罵り合っていたりする場面であえてくそ丁寧に「ご立派なお考えですこと。」などと使用すると、完全な嫌味となり侮辱表現にもなることあります。
言葉によっては敬語だったはずが現在では侮辱語としてしか使用されないものもあります。
謙譲語としての「手前」は「てめえ」となり相手を非難・侮辱する言葉となりました。
尊敬語としての「貴様」は「きさま」となり同じく相手を非難・侮辱する言葉としてしか使わなくなりました。
言葉は常に変化していきます。
「ご」と「お」も常に変化していくものとして考えておいたほうがいいですね。