2017年7月31日月曜日

日本語習得の難しさの原因

他の言語話者から見たときに日本語の習得の難しさを表した例えに以下のようなものがあります。

母語話者同士で会話している内容を理解するのに、その言語の単語をどれだけ知っていたら話している内容を理解できるのかというものです。

もちろん音としてはきちんと聞き取れることが前提となります。

会話している内容の90%以上を理解するために必要な単語の数が言語別に調査されたものがあります。
  • フランス語・・・  2,000語
  • 英語   ・・・  3,000語
  • 日本語  ・・・10,000語 
日本語の母語話者同士の会話を理解するためにはとんでもない数の単語を覚えなくてはならないことになります。

しかも、日本語の場合は同じようなことを表すのにもたくさんの単語が存在するだけではなく同音異義語の多さがさらに理解の難しさに拍車をかけていることになります。


世界的に見たときに習得するのが難しい言語の筆頭は、中国語と日本語だと言われています。

どちらにも共通するのは漢字という、それだけで意味を表している文字を持っていることです。

漢字は現代に残された唯一の表意文字だと言われています。

他の言語の文字がそれだけは意味を持たない音(発音)を表す文字である表音文字であることから考えると、それだけでも漢字という表意文字を持った日本語や中国語には抵抗感があることが考えられます。


日本語の習得の難しさの原因は、漢字の存在と一般的に使用されている単語だけでもとんでもない数があることです。

日常的に使用されている漢字の数だけでも2,000を超えており、さらにこれらの漢字が熟語として様々な組み合わせで存在しています。

中国語においては小学校で習得しなければならない漢字の数だけでも4,000を超えています。

中国語は漢字だけを習得すればいいのですが日本語の場合は一つの漢字であっても音読み訓読みなどの複数の音を持ったものが多いために実際の漢字の数の数倍の言葉を覚えることになります。


中国語の音の基本は一文字一音ですがその音の数は36個の母音と21個の子音の組み合わせで400以上の音を使い分けなければなりません。

英語の持っている音数が1,000以上あると言われていますので、それでも多いほうだとは言えないのかもしれません。

日本語の音の数は68音しかありません。
きわめて音数の少ない言語であるということができますので発音そのものはけっして難しいものではありません。
(参照:日本語の音

しかし、少ない音数でたくさんの言葉を持っていますので同音異義語がたくさん存在しているために文字としての漢字によって意味の特定をせざるを得ないものとなっています。

特に同音異義語の温床となっているのが漢字の音読みです。

音読みとして「コウショウ」と読む熟語は、交渉、鉱床、厚相、考証、工廠、興商,公証など48個も存在しており、音だけから意味を特定することはほとんど不可能といってもよいでしょう。


日本語と中国語を除く言語がすべて話し言葉の音を理解の基準としてしてるのに対して、日本語と中国語は音としての曖昧さや伝わりにくさを文字にすることで理解することを基準としているのです。

他の言語が話すことでよりしっかりとした理解ができることにに対して日本語と中国語は文字として書くことでより正確な理解へとむすびつけるものとなっているのです。

中国語は独特のアクセントである声調までをカウントするとどれだけの音を持っているのかわからないくらいたくさんの音が存在しています。

それは、音だけで言葉を特定できることに結びついていることです。

日本語は音だけでは特定できない言葉がたくさん存在しているのです。

それを特定するためには漢字という文字で表現するかその言葉が使われる独特の表現方法や環境を再現しなければならないことになります。


同じ漢字を使いながらも中国語は基本的には一文字一音です。

そのためにとんでもなくたくさんの音を必要としていますので、他の言語話者にはその音の区別が非常に難しくなっているのです。


日本語の音には二種類の音が存在しています。

音としての言葉が意味を表している場合と音は文字を特定する手段であり文字が言葉としての意味を表している場合とがあります。

漢字を例にとってみれば、訓読みは音が日本語としての意味を持った「ことば」であり、音読みは日本語としては意味のない音のために意味を理解するためには文字としての漢字の意味を知らなければなりません。

訓読みは日本独自の言葉の音ですが音読みは漢語として導入された時期の中国語の読み方ということができます。

主には呉(呉音)、唐(唐音)、漢(漢音)の時代の音が使われており現代中国語の音ともかなり異なったものとなっています。

それも68音しかないない日本語の音でしか表現されませんのでさらに現代中国語の音からは離れたものとなっています。


二種類の音の存在は音で言葉を理解することに慣れている他の言語話者にとってはとても厄介なことになります。

日常的に慣れている音を確認することによって意味を理解するという行為が通じない部分があることになるからです。

すべての音が通じないのであれば簡単に割り切りもできると思われますが、一部には音で理解する言葉も存在していることがかえって面倒なことになっているのです。


二種類の音が存在する原因ははっきりしています。

漢語が導入される前から存在していた話し言葉だけの日本語が基本語として現在にまで継承されてきているからです。

これが日本語の根幹をなしている「ことば」であり「やまとことば」として継承されてきたものです。

漢語が導入されてからはこの「やまとことば」を書き表すための記号として利用されました。

ひらがなとして形を変えて定着していくまでの歴史は万葉仮名に始まる古書で確認していくことができます。


また、漢語による文化の導入として漢語でなければ理解できないものも存在していました。

その典型が仏教であり律令になります。

日本には存在していなかったものですからそのための言葉を持っていなかったものです。

そのためにこの分野では漢語の読み方そのものが利用されていったのです。

この読み方が音読みとして定着していくことになり、日本語としては意味を持たない音ですので文字から意味を理解するための研究が重ねられていったのです。


つまりは、音として理解できる言葉は「やまとことば」につながる日本独自の言葉であり、音として理解できない言葉は外来語として漢字によって取り込んだものとだということができるのです。

日本語が元から持っていた「やまとことば」は音だけで存在していました。

その言葉を表記するために漢字を利用して、そこからからひらがなを生み出しました。

文字として書いたときに平仮名でしか表記できない言葉がありますが、これこそ「やまとことば」が継承されてきているものなのです。


漢字に充てられた訓読みは、「やまとことば」が持っている意味と近いことやその一部を漢字があらわしている場合に与えられたものです。

音しか持たない「やまとことば」を文字としての意味を持った漢字で補足してくれるものとなっています。


特に開国以降の外国の先進文明への対応は歴史的に中国文化を取り込んだ漢語という経験が生かされたのではないでしょうか。

漢字を駆使して様々な言葉を生み出し翻訳していったのです。

その結果生まれたのが音としては意味を持っていない大量の音読み漢字による言葉たちになります。

原語の持っているニュアンスを漢字という文字によって表現し文字によって理解していったのです。

やがてこれらの言葉は漢字の本家である中国に逆輸入されて近代文明の発展に貢献することになります。


明治期以降に大量に生み出された新しい日本語のほとんどが音読み漢字によるものだったことが現代日本語をさらに習得の難しいものとしていったのです。

言葉は生き物ですから常に生まれては消えていきます。

しかし、その文明の基本として存在している言葉は長い年月を経過しても基本語としてその言語の根幹をなしていきます。

日本語は「やまとことば」(ひらがなことば)を根幹としながら、世界のあらゆる最先端文明を漢字によって取り込んでいった言語となっているのです。


文字のなかった時代には当時の世界最先端文明の中国文明を取り込み、明治期に開国してからは時の世界最先端文明のヨーロッパ文明を取り込み、大戦後は最先端文明としてアメリカ文明を取り込んできたのです。

特筆すべきはどの段階においても決して植民地化や侵略によって強制的に行なわれたことではなく、自らの意志によって自らの言葉で取り込んできたことです。

時代時代の世界の最先端文明に触れながらも侵略的な影響を受けなかった言語はありません。

極端な場合には伝統的に継承していた言語までもが侵略されて征服されてしまって、オリジナルの言語を失ってしまった例は数えきれないほどあります。


日本語習得の難しさの原因の大きなものは、日本語の原点であり基本語である「やまとことば」が世界のあらゆる言語との共通性を持たない日本独自の孤児的な存在だからではないでしょうか。

日本語を母語とするものが日本語習得の難しを考えることは、直接的な難しをを実体験できないだけにどんなにやってみても想像の域を出ないことになります。

他の母語話者の友人の話を参考にしながらであっても、自分の母語の習得の難しさを考えることは自然に自国文化を振り返ることになります。

文化を比較することにもつながっていくのではないでしょうか。

相手の文化を知ることの方が先なのかもしれないですね。


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