他の言語、特に英語と比較すると日本語がいかに聞き手の理解力に頼っている言語であるかということがわかると思います。
(参照:表現する英語、解釈する日本語)
そうはいっても実際にはきき方を意識して行なっている人はほとんどいないと思いますし、そんなことをしていたら聞き漏らしてしまうこともあるのではないでしょうか。
そこで、これから数回をかけて人の話しをきくときに行なっている知的活動を分解してみたいと思います。
ヒントとなるのは動詞としての「きく」と読むことのできる漢字です。
「きく」というひらがな表記は「現代やまとことば」としての表記であり文字のない時代の言葉である「古代やまとことば」につながるものです。
(参照:「現代やまとことば」を経験する)
文字のない時代のことばに対して具体的に表記文字として文字の持っている限定的な意味を与えたものが漢字による表記になります。
訓読みの同音異義語はもとは同じ「やまとことば」から発生したものが多く、漢字を与えられることによってより具体性と限定性を与えられたものとなっています。
「きく」と読む漢字を書き出してみましょう。
いくつ書き出せますか?
「聞く」を筆頭に「聴く」「利く」「効く」「訊く」の五つになります。
「聞く」と「聴く」についてはすぐにわかりますが、それ以外はちょっと難しかったかもしれませんね。
この五つの意味もすべて「やまとことば」としての「きく」から派生したものだと思われます。
この五つの「きく」によって聞き手が行なっている知的活動を説明することが可能になっています。
実際の活動においては話を聞いているうちにこれから説明する内容を一瞬で行なっていますので意識することはないのではないかと思われます。
「きく」は「理解する」「分かる」と同じような意味で使用されることが多い言葉になっています。
そのことからも日本語は「きく」ことによって理解を深めることが求められているのでしょうね。
まずは第一段階の「聞く」から見ていってみましょう。
一般的に「きく」と言ったらこの漢字をイメージすることになると思います。
比較の対象としては第二段階の「聴く」だと思われます。
説明の欄にも「話し手の発する音をきく」となっているように、感覚器官の聴覚で行なっている活動の対象を特別に限定していない活動となります。
「聴く」が対象に集中して意識して行なっていることに対して、「聞く」の方はいわゆる聞き流している感覚になるのではないでしょうか。
話し手側から感じられる態度としては、聞いているのかどうかよく分からないと言ったところでしょうか。
音をきいているわけですからその対象は言語だけとは限りません。
音楽かもしれませんしそれ以外の音かもしれません。
つまり第一段階の「きく」である「聞く」は聴覚として何かを感じている状況だけであり、これから行なおうとしている言語についての知的活動の対象に絞り切れていない状態だと言うことができます。
しかし、言語だからと言って特殊なききかたができているわけではありません。
特に日本語の場合は言語だからと言って言葉として直接聞き取っているわけではなく、ひらがなの音としてしか聞き取ることができないものとなっているのです。
(参照:「ひらがな」でしか伝わらない日本語)
言語として聞き取るためには他の音とひらがなの音とを区別して聞き取ることが必要になります。
この区別をしていない状態が「聞く」という状況ではないでしょうか。
他の音と言語の音とを区別して聞き取る以前の状態ということができます。
この状態から日本語のとしての音である「ひらがなの音」を聞き取ることが第二段階としての「聴く」ということになると思います。
特に日本語の特徴として何度か取り上げていることとして日本語が持っている音としての周波数帯が他の言語に比べて低周波数帯に偏っていることがあります。
日本語を母語として持っている私たちは言語として使われる周波数帯に対してより敏感に聞き取りができるように聴覚が発達していきます。
第二段階として話し手の発している音の中から言語の音としてのひらがなの音を聞き分ける「聴く」に至るためにはそのために集中することが必要になってくることになります。
子どもの言語習得の段階と比較してみるとイメージしやすいかもしれないですね。
「聞く」の段階はガラガラやオルゴールなどと一緒に人の話す声(音)に対して反応している状態であると言えるのではないでしょうか。
言語であることや意味のある言葉であることも感じ取ることができない段階だと言えると思います。
第二段階以降の説明や目的を求めないときのきき方は「聞く」になっていることになります。
話しをしている人の言葉をきこうとたり論理を聞こうとしたりするには「聞く」というきき方では足りないことになります。
音楽をきくときのきき方から少しずつ知的活動としてのきき方を見ていきたいと思います。
次回は第二段階の「聴く」について「言葉をきく」活動について見ていきたいと思います。
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