文字のなかった時代に語られていた「古代やまとことば」を表記するために漢語を利用して生み出した文字が仮名になります。
(参照:『古事記』も悩んだ日本語表記)
ひらがなの基本としての五十音図は何度も変遷を繰り返してきました。
言文一致としての今の五十音図が設定されたのが最初の五十音図が確認されてから1500年後の明治になってからということになります。
しかし、今現在でも完全な言文一致が完了しているわけではありません。
このことは、話し言葉として発せられた「ひらがなの音」を聞き取って言葉を認知しようとしたときには注意をしなければいけないことになります。
同じ文字を使用しながら使われる場面によっては読みとしての音が異なる文字がいくつか存在しているのです。
実は、英語には同じ文字を使いながらも使われる文字の組み合わせによって音が異なるものがたくさん存在します。
文字の綴りだけを見て発音しても実際の言葉の音にはならない言葉がたくさん存在しているのです。
英語の基本は口頭言語であり文字や文章としてよりも話し言葉として音で伝えたほうが伝わりやすいことになります。
日本語にある同字異音は限られたものしかありませんが、実際の使用場面ではほとんど意識されていることはないと思います。
代表格は「は」です。
「は」の基本音は「ハ」ですが、格助詞として使用される場面では「は」と表記しながらも音は「ワ」になっています。
「では」としての使い方においても「デハ」と呼んだのでは意味が全く通じません、「デワ」と読んで初めて意味が通じるものとなることになります。
小学生のころに初めて出会った「ワ」とよむ「は」にはびっくりした記憶がありますが、その後は自然と「ワ」と読めるようになりました。
ここはどっちだろうと考えることもなく意識しなくとも自然と「ワ」と読めてしまうようになっています。
「コンニチワ」の「ワ」は「わ」なのか「は」なのかで考えることはありますが、「今日は、良い天気で・・・」の後半が省略された表現だとしたら格助詞としての「は」の使い方と同じということになるのでしょうか。
方向や目的地を表す助詞である「へ」も読み方としては「エ」となります。
この二つの文字が使言われ方によって音が異なる典型的な同音異字のひらがな版と言えるのではないでしょうか。
これら以外にもよく見てみると「と」や「きょ」などにつづく「う」については「ウ」と読むとぎこちなくなることに気がつきます。
「おとうさん」「おとうと」「とうきょう」「きょうと」の「う」はすべて「オ」と読むことになりますね。
文字を書き始めた子供たちが「おとおさん」「おとおと」「とおきょお」と書くのを見たことがあるのではないでしょうか。
実際には「オ」という音よりもその前の音の母音を引き延ばす「ー」の役割を果たしているのだと思います。
「おこそとのほもよろ」のオ段に続く「う」はすべてこのような音になっています。
同じように「せ」や「け」の次に来る「い」は「イ」と読むとぎこちなくなっています。
「せいこう」「けいほう」「けいこ」の「い」はすべて「エ」と読むことになりますね。
エ段の音に続く「い」は基本音の「イ」と読むよりは前のエ段の音の母音である「エ」の音をそのまま伸ばした「ー」の役割の音となっています。
「警察」の読み方を「けいさつ」と書きますが実際の音としては「ケーサツ」となっているのではないでしょうか。
これらのことは日本語の共通語として使い方のルールを定めた国語においても規定されているものではありません。
国語において規定されているのは「行く」と「言う」くらいではないでしょうか。
国語のテストで「行く」の読み方として「いく」と答えても「ゆく」と答えても正解となっているのです。
しかし、「言う」の読み方として「ゆう」と答えると❌がつけられます。
「言う」は読み仮名としては「いう」でなければならないのです。
日本語変換のソフトでもよくできています。
「いく」でも「ゆく」でも「行く」に変換されますが、「ゆう」は決して「言う」には変換されません。
「言う」に変換したければ「いう」と入力しなければならないのです。
国語は日本語のなかでの共通語として意味や使い方を規定したルールのある日本語です。
日本語そのものに基準がない以上正しい日本語という言い方は出来ませんが、国語についてはルールがある以上正しい国語という言い方ができるのです。
国語として間違っているといった言い方が可能なのです。
その国語自体も実際に使われている日本語の影響を常に受けています。
毎年のように国語としてのルールが現状に合わせて変更されていることでよく分かるのではないでしょうか。
これらの微妙なニュアンスも日本語を母語として身につけていれば感覚として理解しているために、ほとんど意識することなく対応できているのです。
理屈やルールで日本語を学習しようとするととても難しいことになります。
例外だらけになるからです。
新しい言葉や新しい使い方は日々生み出されていますが、ひらがなによる使い方はほとんど変わらないままに継承されてきています。
新しい言葉のほとんどは漢字によるものですしカタカナやアルファベットによるものとなっています。
新しい環境や文化や時代をこれらの言葉で表現しながらも、基本的な構図や感覚はすべてひらがなが形成しているのが日本語です。
日本語がらしさが一番現れているのがひらがなの使われ方なんでしょうね。
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