(参照:日本語で聞いていること)
これは話し手ではなく聞き手の方においても同じことが言えます。
日本語で伝えられたことで実際に伝わっているのは「ひらがなの音」でありそれを言葉として解釈しているのは聞き手の知的活動になっているのです。
しかも、話し手が「ひらがなの音」で発信して聞き手が「ひらがなの音」で受け取っていること自体を双方が感じていない場合がほとんどとなっているのです。
実際の感覚としては、話し手は意味のある言葉として発信しているつもりになっていますし、聞き手の方でも言葉として受取っているつもりになっていると思います。
話し手は「元気な」という言葉を伝えているつもりであっても、実際に相手に対して発信されているのは「げんきな」というひらがなの音でしかないのです。
ここで「げんきな」というひらがなの音をきちんと聞き取ることができなかった場合はどんなことが起こるでしょうか。
話し手の方としては「元気な」という言葉を伝えているつもりになっていますのでひらがなの一音ずつに対しての意識はほとんどありません。
アナウンサーとして発音を磨いた人でもなければ「ひらがなの音」がどのように伝わっているのかを気にするひとはいないと思います。
言葉として伝えているつもりになっていますのでそこまで注意が行き届かないのが当たり前でもあります。
聞き手が話し手の伝えていることを理解しようとする活動は「ひらがなの音」を聞き分けることから始まります。
日本語の基本音は濁音・半濁音を含めても71音しかありませんので判別はしやすいはずです。
それでも音によっては聞き取りにくいものがあることも確かだと思われます。
その一つの例が母音の「あいうえお」の5音です。
この5音の中で伝わりやすさの順番があります。
伝わりやすさとは聞き取りやすさのことでもあります。
その順番は「いえあおう」となります。
この順番で発音してみると口の前の方から出ていた音が順番に喉の奥の方から出てくるようになるのが分かるのではないでしょうか。
また、「お」と「う」はきちんと発音しないと紛らわしい音になることになることも分かると思います。
喉の奥から出る音ほど口の中で音が減衰してしまうために聞き取りにくくなってしまうことになります。
自分では同じ大きさで発音しているつもりでも聞こえ方としては「いえあおう」の順番で小さくなっているのです。
言葉の最初が「う」から始まるものは意識して最初の「う」にアクセントをつけないととても聞き取りにくい言葉となってしまいます。
特に「う」の次の二音目にアクセントをつけているような場合では最初の「う」はほとんど聞き取るができない場合が多くなります。
試しに、「宇宙」と「宇宙衛星」の音を比べてみましょう。
「うちゅう」の場合は最初の「う」にかなり強いアクセントがあると思います。
「うちゅうえいせい」の場合には二音目の「ちゅう」が最初の「う」よりも強く発音されることが多くなります。
聴き比べてみると「うちゅうえいせい」の最初の「う」は音として聞き取ることがとても難しいことが分かるのではないでしょうか。
このことは母音として「う」を持つ全ての音に対して言えることです。
住友銀行も最初の「す」をしっかり発音しないと「みともぎんこう」と聞こえることが起きてしまいます。
特に5音以上の言葉についてははっきり伝えようとすればするほどアクセントが真ん中に寄ってきてしまって最初の音が弱く感じられてしまうことが起こります。
その最初に「う」の母音を持つ音がある場合にはどうしても聞き取りにくい音となってしまうのです。
「ひらがなの音」をきちんと伝えることが日本語を話す場合にいちばん大切なことになるのではないでしょうか。
「ひらがなの音」がきちんと伝わっててこそ聞き手が初めて言葉として受け取ることが可能になるからです。
その割には「ひらがなの音」をきちんと伝える練習はやったことがありません。
アナウンサーは発声練習を欠かすことができない職業ですし、俳優さんや歌手はボイストレーニングをしっかりしないといけない職業です。
しかし、「ひらがなの音」をキチンと伝える練習はすべての人に必要なものではないでしょうか。
テレビやラジオで見たり聞いたりしている人のほとんどはこれらの練習をした人であり、明らかに一般の人とは「ひらがなの音」の伝わり方が違っているように思われます。
街角インタビューなどで素人が話しているのを聞くとどうしても聞き取りにくくなってしまうのは仕方のないことなのでしょうか。
もう少し「ひらがなの音」に対して意識を向けてもいいのではないかと思います。
新しい言葉を覚えることよりも大切なことかもしれませんね。
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