2015年11月10日火曜日

居酒屋「ごり」

私がいちばん頻繁に利用する駅の近くにたまに立ち寄る居酒屋があります。

店の名前はひらがなで「ごり」と言います。

大将の出身は岩手県らしいのですが、東北で「ごり」という名の名物を聞いたことがありませんでした。


店の由来を大将にたずねたところ魚へんに休むと書いて「ごり」と読むところから付けた名前だということです。

岩手の出身で活きのいい魚を中心にした料理を出したいと思ったそうです。

季節がら宮城産のカキがあったのでおいしくいただきました。


漢字を使っての発想法のひとつかもしれませんね。

魚を使ったおいしい料理で一休みしてほしいと思ったので魚へんに休むと書いてみたそうです。

すると「ごり」という魚が「鮴」という字で表せていることが分かって、店の名前を「ごり」にしたのだそうです。


「ごり」という魚は加賀の名物で小さな川ハゼのような魚です。

それ以外にも地方によってはメダカのことを呼んだりドジョウのことを呼んだ入りする言葉となっています。

しかし、一般的には煮付や空揚げにされて提供される加賀料理の川魚のことを指すことが多いようです。

「ごり」のお店のメニューにも「鮴」の料理はありませんでした。


漢字は文字そのものが意味を持っていますので、篇(へん)や旁(つくり)を組み合わせることで文字の意味だけで言葉を作ることができるものです。

表意文字の真骨頂ともいえるものですね。


「鮴」はまさしく字のごとく淡水魚としてのハゼのようなものですので、岩などにくっついていることが多く常に泳いでいるわけではありません。

他の泳ぎ回っている魚と比べれば休んでいると見えるのではないでしょうか。

休んでいる魚だから「鮴」なんでしょうね。


この「鮴」も音としての「ごり」が先にあったと思われます。

そして「ごり」として川ハゼのような生態も確認されていたのではないでしょうか。

そしていつも休んでいるような魚だから「鮴」という字が充てられたと思われます。


魚篇の文字で魚の名前を表すものはほとんどの成り立ちが同じようにできていますね。

音としての魚の呼び名が先に存在していたと思われます。

その特徴の一部を漢字で表して魚へんにしてみたものが文字として定着していったのではないでしょうか。


あるものは色を表わしたり、あるものは漁れる季節を表わしたり、あるいは強さや弱さだったり硬さだったりいろいろな面から見た特徴を捉えているのではないでしょうか。

すると、魚へんに「京」の鯨や「里」の鯉などはどんなことからできたのでしょうね。

いろいろな想像が駆り立てられますね。


漢字の成り立ちの一つの形態でもあります。

基本的な文字を組み合わせて新しい意味を持った文字を作ることは表意文字ならではの芸当ではないでしょうか。


仮名という基盤となるの文字や言葉を生み出して継承しながらも、漢字というとても汎用性のある造語力に優れた文字を使いこなしている日本語は、かなり高い言語能力を要求されているものではないでしょうか。

ただし、母語として母親から伝承されて育っていく中で自然と身につけた日本語は、第二の天性とも呼べるものになっており特に意識することもなくなっています。

たまには、振り返ってみる機会があるといいですね。

最近使っている言葉が限られたものになっていませんか?

新しい言葉や言い換えにもっと敏感になると行動も変わってくるようですよ。