2015年3月9日月曜日

日本語のチカラを生かした交渉(2)

先回の「日本語のチカラを生かした交渉」では、対立に対しての日本語の持っている感覚と欧米型言語の感覚の違いについて触れてみました。
(参照:日本語のチカラを生かした交渉

ひとたび対立の構図ができてしまうと全面対立となってしまうのが日本語の感覚であり、対立を確認することから交渉が始まるのが欧米型言語の感覚となっています。

かたや、できるだけ表立った対立を咲けようとする感覚と、対立が表面化しているから交渉があるという感覚の違いでもあります。


日本語の感覚で行われる交渉の場は、最終合意のために設定された形式的な場面となり、実際の対立の解消については裏方で根回しとして行なわれることが多くなります。

実際の交渉は、交渉の場面よりも事務方による調整の場面で行われていることになります。


そもそも、交渉とは何のために行われているモノなのでしょうか?

交渉を必要としてる状況とは、どのような状況なのでしょうか?


交渉の前提となっているのは、今起きている現象・事実が自分にとって好ましくない状況であることです。

その状況を自分にとってさらに好ましい状況にするために行なわれるが交渉となります。

さらには、その好ましくない状況をより好ましい状況にかえるために、自分では状況を変えることができずに他者の協力を必要とする場合に行なわれるものであると言えるでしょう。


一番簡単な交渉は、自分にとってより好ましい状況に変えることが、交渉の相手にとってもより好ましい状況になることです。

これをWin-Winと言ったりしていますが、この感覚は日本語の感覚によるものです。

欧米型言語の感覚によるWin-Winとは、少し異なっていることを聞いた時には、今までの経験と照らし合わせて思わず納得してしまったものです。
(参照:Win-Win にだまされるな)


日本語の感覚においては、対立の構図に自分がいること自体が不安定であり気持ちが悪いのです。

どうしても、対立の環境に対して、対立を解消しようとすることよりも回避をしようとする方向に動きがちになります。

言語の持っている感覚ですので、そうなる傾向は日本語を母語として持っている限り多かれ少なかれ誰にでもあることです。

したがって、対立の内容に対して客観的に冷静に論理的に考えることが苦手になっています。


明らかなNoに対しては、大きく感情が揺さぶられることになります。

したがって、交渉の進め方も相手から絶対的なNoが発せられないようにしながら、より好ましい状況に持って行こうとするのです。

その時に、忘れられがちなのが、より好ましい状況に持っていくための手段は自分が設定した条件だけではないということです。


欧米型言語の感覚では、より好ましい状況のために必要な条件に対しての交渉が、対立を軸として、説得と条件緩和の繰り返しによって行なわれていきます。

日本語の感覚では、対立を目の前にした環境下にずっと置かれること自体が嫌なのです。

そんな日本語の感覚でありながら、設定した条件に対して譲歩を迫ることが行なわれており、結果としてより影響力のある方が一方的な条件を獲得することが多くなります。


日本語の感覚に合っている交渉は、共同作業による問題解決です。

つまりは、交渉相手の持っている知恵や技術を提供してもらうことによって、双方にとってより好ましい状況を作り上げることになります。

お互いが属している環境は、まったく同じということはありませんので、それぞれが複数の環境に属しながら活動をしています。

その環境を知ることによって、一歩的な搾取とならない方法を探すことが可能となることが多いのです。


条件交渉になってしまうと、その条件のみに焦点が行ってしまい、その条件を変えることによって達成しようとしていた本来の目的を忘れがちになります。

真面目な日本語の感覚では頻繁に起きていることです。

個人としてはどんなに気を付けていても、一生懸命になればなるほど目的を忘れてしまうことになります。

これが極端になってしまうと、その条件を獲得すること自体が目的となってしまいます。


自分では知らないうちに、あらゆる場面で起きていることです。

これは仕方のないことなのです。

自分では修正できないのです。

他者の目から見た時に初めて見えてくるものです。


一生懸命やればやるほど、時間の経過とともに目的のための一手段であった条件を獲得することが、目的にすり替わってしまうのです。

その条件を獲得したことに納得してしまって、目的を達成した気持ちになってしまったことで、他の要因で本来の目的を達することができないことはいたるところで起きていることです。


日本語の感覚を生かした交渉は、条件交渉ではありません。

目的を明確にして、交渉相手の力を借りながら目的達成のための選択肢を増やしていくことです。

対立の構図ができてしまっては、相手から有効な選択肢を提示してもらえる機会が減ってしまいます。

目的のための共同問題解決者として、交渉相手と一緒に取り組んでいくことが日本語の感覚を生かした交渉となります。


そこでは、想定もしていなかった選択肢が出てくることもあるはずですし、こちらの状況を変えることなく相手の状況を好転することも可能な選択肢も出てきます。

同様に、相手の状況は変わらないがこちらの状況がよくなる選択肢を望むこともできます。

もしかすると、双方の状況がともに好転するような選択肢が見つかる可能性もあります。

お互いが属している環境のなかで、さらなる状況変化の可能性へと広がることもあります。


交渉の場面で、条件交渉に絞ってしまうとこの機会を失うことになります。

日本語の感覚において、オークションや入札が好まれないのは、この機会を与えられないことにあります。

よりこの好ましい状況は、違った環境にいる者から見たほうが新しい切り口が見つかる可能性が高くなります。

それぞれの環境の中においては、日々の活動のなかでできる限りの好ましい状況を作ってきているわけですから、他の視点からの選択肢の方が役にたつ可能性が高いのです。


日本語の感覚を生かした交渉の基本は、目的を共有した共同問題解決です。

より好ましい条件を獲得するための条件交渉にならなうようにしたいですね。



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