母語として持っている言語が、そのほとんどが母親からの伝承言語であることについては機会がある度に触れてきました。
すでに母語としての言語を持っている私たちから見たら、あらためてそうだったんだと感じることは可能かもしれません。
しかし、これから母親として母語と伝えていく立場としては、伝承言語としての母語についてどのように考えておけばいいのでしょうか。
出産の適齢期というものがあります。
いろいろな観点からの指摘がなされていますが、肉体的な面からは20代の後半が適齢期とされています。
医学的な視点からはかなり幅がありますが、それでも30歳過ぎまでとしていることが多く、高齢出産の基準である35歳以上はそれ以前の出産と比べて明らかにいろいろなリスクが高くなるとされています。
今回は、母語の伝承という観点から出産適齢期を見てみたいと思います。
当然のことながら、肉体的な要因も考慮しなければなりませんので、一般に言われている適齢期とは大きなズレはないと思いますが、その裏付けの一つにでもなればいいかなと思います。
母語の伝承は、生まれてから18ヶ月周期で3期(18×3=54ヶ月:4年半)までで完了すると言われています。
その中で一番大切なのが、生まれてから2期(3年)までになります。
子どものとしては、2期目の最初で「言葉の噴火」の時期を迎え、2期目で一気に具体的な言葉を身につけていく時期になっています。
(詳細:言葉の噴火の前に)
この母語習得のために一番大切な時期に、伝える側の母親としてどんな言語を持っていることが望ましいのかという視点で見てみます。
母親も、自身が伝承してきた母語を持っています。
そして、
義務教育を中心に習得してきた、学習言語としての国語を持っています。
さらに、
社会人としての生活の中で身につけてきた、環境言語としての生活語を持っています。
子どもに伝承する言語としては、これらの言語を区別して伝えることは不可能ですので、すべてが混在した一つの言語として伝えることになります。
そのときどきの環境によって、母親が発する言語も変わりますので、子どもが何人いたとしても伝承される母語が全く同じものになることはありません。
これらの基本言語のうち、すべての母親が共通して持っているのがそれぞれの母親から伝承された個性的な母語です。
また、
ほとんどの人においては、その母語を基本として習得してきた、日本語の中の共通語ともいうことができる国語も共通して持っている言語と言えるでしょう。
生活語については、社会に出てからの経験によって、かなりの個人差があるものとなっているはずです。
つまりは、母親自身の言語の習得状況によって、出産の適齢期が異なることになります。
例えば、大学を卒業して22歳で社会人となった女性であれば、3年程度の社会人生活を経験した25歳頃には、持っている言語の中での生活語の割合はかなり小さいものではないでしょうか。
生活環境も大きな影響を与えるものとなります。
親元に一緒に生活している場合と、独立して生活している場合では社会との接点が大きく異なり生活語としての習得も大きな差が出ることになります。
母親として子どもに母語として伝えたい言語の状態は、日本語の持っている基本的な感覚をそのまま言語として持っている状態です。
人によっては、正しい日本語として子どもに伝えたいと思っている人もいるのではないでしょうか。
生まれた子供に対して、正しい日本語を習得させようとする母親もいますが、その時点では無理です。
また、正しい日本語というものは存在しませんので、おそらくは使い方や意味がはっきりと規定されている国語のことを正しい日本語と言っているのだと思います。
いずれにしても、日本語としてだれにでも同じ理解が可能であるものは、三つの言語のうちの国語になります。
母語、国語、生活語の順番で身につけていきます。
母語だけの期間や母語+国語の期間が義務教育プラスαと考えていいと思います。
また、学生生活はほとんど社会生活との接点が少ないので、生活語の割合は極めて少ないと考えていいと思います。
子どもに伝えるべき母親の言語の状態は、母語+国語に程よく生活語が混ざり合った状態ということができるでしょう。
社会人生活が10年を超えるようであれば、ほとんどの部分が生活語になっており、仕事の内容にもよりますがかなり偏った言語となっている可能が高くなります。
学生生活が短くて社会に出た人であれば、年と共に必然的に生活語の割合が多くなります。
一般的な社会生活よりも専門分野的な隔離された環境にある場合は、更に短期間で生活語の割合が多くなります。
程よく生活語が混ざっている状態は、かなり短い期間しかないことになります。
一般的に大学を卒業して社会人となり、一般事務職的な仕事についている場合は、25~30歳程度が出産の適齢期と呼べるのではないでしょうか。
大学院を卒業したり、大学の研究室に何年もいてから社会に出たような場合には、かなり専門的な仕事に就いている可能性があります。
そうなると、社会に出てから3~5年程度が適齢期と言えるのではないでしょうか。
大学を卒業しても、家庭に居ていわゆる家事見習いとして生活をしている場合には、かなり長い出産齢期間があると思われます。
それこそ、肉体的・医学的な適齢期の限界まで可能ではないでしょうか。
適齢期を大きく過ぎてからの出産となると、母親の使っている日常言語のほとんどが生活語となっています。
専門的な領域が多いほど、母語としては日本語として本来持っている言語感覚とは離れたものとなっていくことになります。
ザックリとみてきましたが、伝承言語から見た出産適齢期も他の視点から見た場合とあまり大きな開きはないことになります。
一番の違いは、個人差の大きな要因として社会環境において習得する言語である生活語の割合が、どの時点でほど良い程度となっているかとなっています。
生活語がほとんどないことも困りますが、多すぎることも母語としては望ましいことではないと思われます。
ほど良いバランスの間で子どもを持ち、言語を伝承していくことが大切なようですね。
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