日本語の感覚を交渉ごとに生かすとどのようになるのでしょうか?
昨日のセミナーで、参加者の方に模擬交渉を行っていただきました。
皆さんがそれなりのビジネスの場を長く経験していますので、様々な交渉の場面をご存知の方ばかりでした。
ところが、面白いことにすべて自分のことにかかわっている交渉になると、とたんに腰が引けてはっきりとした明確なやり取りができなくなっていくのです。
交渉の場面の中でも一対一の場面は、日本語の感覚においてはとても居心地の悪いものです。
環境に対して適応することで共生を目指している日本語の感覚においては、何とか相手に合わせようとしますし自分の要望すらを明確に伝えることがとても苦手になっています。
そもそも、交渉という場面そのものが日本語の感覚にとっては「不快」と感じる要素が多いものとなっているのです。
交渉と言うとどんなことを思い浮かべるでしょうか?
相手を説得することや相手からより良い条件を引き出すことと考える人が多いのではないでしょうか。
自分が能動的に働きかけて、自分にとってのより良い(都合の良い)条件を相手から引き出す活動そのものが、日本語の感覚にとっては相手をだましているような感覚となっていることがよく分かります。
日本語になっているとは言え、交渉という言葉や場面自体が欧米型言語の感覚のものであり、そこには力ずくで自分の都合のいいものを勝ち取ると言ったニュアンスを感じているようです。
交渉そのものが欧米型言語の感覚(ネゴシエーション)であることを伝えると、ほとんどの人がとても納得感のある反応をしてくれました。
言葉として言い換えてみました。
日本の感覚で行う交渉は、「調整」と言った方がより内容を的確に表していると思われます。
「調整」という言葉を出したときの参加者の反応は、思わずほっとしたような安心感を受取ることができました。
会社の方針や目的に沿った交渉を行なっている場合には、会社のための代理交渉という立場をとっていますので、比較的簡単に自己主張ができます。
そこには自己主張ではなく会社の意思であるという、個人の意志とは異なったものとして扱っている気安さがあるからです。
ところが模擬交渉で、すべて自分の責任と目的のためのことになると、途端に自己主張が弱くなってしまい交渉の目的すら伝えられないことになるのです。
日本語の感覚で行う交渉は、「調整」という感覚を持って行なった方が上手くいくようです。
利害の調整、スケジュールの調整、役割分担の調整、などですね。
日本語が持っている感覚の中に、交渉に対してはどうしても相手から何らかの都合の良い条件を勝ち取るというものがあります。
ですから、日本人は交渉におけるWin-Winが大好きなのです。
日本語の感覚における交渉には、そもそもWinもLoseもないのです。
交渉におけるWinという感覚自体が、欧米型言語の感覚なのです。
Winを意識したとたんに、論理性と説得の場になってしまいます。
調整を意識することによって、せっかく集まっている知恵をお互いが出すことによる共同解決の場となってくるのです。
Winを意識すると、少しでも不利になる状況については相手に知らせないようにします。
反対に、相手の不利になると思われる状況は、屁理屈になったとしても押し付けようとします。
欧米型言語の感覚における交渉は、それでいいのです。
その部分だけを扱うことに慣れているからです。
(参照:Win-Winにだまされるな)
日本語の感覚では、「調整」には対立や敵対の要素が入りにくくなります。
弱いところを補い合うという感覚の方が強くなります。
どちらの方が結果として得るものがあるかは、一目瞭然ですね。
交渉という言葉自体が、余分なものかもしれません。
または、交渉という言葉の持っているイメージがよくないのかもしれません。
言語の持っている感覚は、一人ひとり微妙に異なります。
人によっては、交渉ごとに勝ち続けているために「交渉」という言葉にとてもいいイメージを持っている人もいるかもしれません。
日本型交渉の「調整」を掲げて行う模擬交渉は、ほとんどの場合において両者が満足する合意に至ることができます。
面白いものですね。
じつは、結果として合意に至らなかったとしても、その後の関係が決して悪くならないのです。
むしろ、より良いパートナシップへ向かっていくことの方が多くなっています。
ところが、同じ人が英語で交渉を行うと、平気で自己主張ができるようになり、相手を論理で説得することができるようになります。
言葉は意識までも変えてしまいます。
しかも気づかないうちに変えてしまいます。
上手に使いたいですね。
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