そのための表現をしたり伝承したりするツールとして、言語が使われてきたことも間違いのないことでしょう。
したがって、言語が持っている言葉や使われ方には、その民族の歴史文化が反映されており、さらにはその言語を用いる感覚そのものにも反映されていると思われます。
歴史文化の根底にあるものは、生き抜いていくための知恵であり工夫ではないでしょうか。
ある程度、生き抜いていくことに対して、直接的な生命の危機を回避することができるようになって初めて、より高度な文化技術に対して目を向けることができるようになったものと思われます。
したがって生きていくための最大の脅威に対して、どのように対応してきたのかが歴史文化の根源であり、言語にとっての基本感覚であると思われます。
大きな季節の変動があったとしても長い年月によって比較的安定した地形と気候である旧大陸に属するヨーロッパやユーラシアでは、自然の活動によって生命が危険に晒されることは稀でした。
また、厳しさはあったとしても安定した気候によってある程度の予測ができるようになっていたと思われます。
直接的な生命の危機は、他の国や民族による侵略になります。
人による侵略ですので、相手に利を与えることで回避することが可能になります。
それは、個としてどの庇護下にあることがより安全であるかが判断基準になりますので、明らかに力の勝る相手には降伏や裏切り・謀略などによって生命の危機を回避しようとします。
そのために地形や気象条件をも利用することとなります。
同族として生命の危機に晒される者があったとしても、個としては権謀術数に長けていれば生き抜くことが可能だったわけです。
これらの地域では生き抜くための行為としての裏切りや情報提供は、私たち日本語話者が思っているよりもずっと許容されているものです。
結果として、より安全を確保できる者の庇護下にあるか、あるいは自らが安全を確保できる立場になるかが生きるための手段でした。
この感覚はしっかりと言語の感覚につながっているのです。
それに対して、日本列島は新大陸に属しており、地形そのものが現在であっても安定していません。
活発な火山活動による地形の変動や厳しく移りゆく季節や激しい自然現象は、多くの生命を奪ったものと思われます。
歴史文化の根底としての、生きていくための最大の危機は自然環境にあったと思われます。
また、地理的に海流が行き交う島国であるために、他の国や民族による人的な侵略を受けた経験がほとんどありません。
生き抜くための最大の危機の対象は、人ではなく自然環境にあったと思われます。
自然環境の前にあっては、どんなに権謀術数に長けていようとも個としての対応をしてみても無駄になります。
それよりも厳しい自然環境の変化に対して、力を合わせて少しでも被害を少なくすることの方が効果があります。
結果として、激しく変化する自然に対して、適応して共生していくための工夫をすることになったと思われます。
同じような厳しい自然環境を持つ狭い地域で、変化し続ける環境に共同体として適応しながら自然と共生してきたのではないでしょうか。
この感覚が日本の歴史文化の根底であり、日本語の感覚の根底ではないでしょうか。
世界でも稀な、他の国や民族による侵略よりも自然環境の方が生命の危機としては大きかったと思われます。
国内における侵略や争いはありましたが、それは歴史文化を同じくするもの同士の争いであり、大きな意味での日本としての歴史文化については、ずっと継承されていると考えられます。
また、江戸初期においても現代よりも5m以上は高かったっと思われる海面は、人が生活できる地域が限られたものであることを物語っています。
自然と共生するための技術がある程度蓄積されていくまでには、生存のためにより適した地域の奪い合いがあったと推測することができます。
何に生命の危機を感じて、それにどのように対処しようとしたのかは、言語に限らずあらゆる文化の根底にあるものだと思われます。
文化を具現化し表現し継承してきたものが言語である以上は、言語の持っている感覚の根底には同じものがあるということができます。
日本語感覚の特殊性は、このことによることが多いのではないかと思われます。
中国から導入した漢語を利用して作り上げた独自の言語は、その後も大きな侵略を受けることのなかった歴史を通じて、ほぼ同じような環境のままで現代へと継承されてきています。
欧米型言語の感覚による文化をも導入しながら、基本的な姿を変えずに継承されてきた日本語は、その感覚をもずっと継承し続けているものと考えることができます。
これから見ていこうとする新しい先進文化との接触においても、その取り組み方や対応の仕方にも日本語の感覚が現れていることを見ることができます。
いろいろな視点から見ていきたいと思います。
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