2015年2月10日火曜日

日本語の持つホスピタリティ

ホスピタリティという言葉は日本語にしにくい言葉です。

サービス業などでは頻繁に使われている言葉ですが、なかなか一般化までは至っていないですね。

あえて日本語にするとしたら、少し前に流行語にもなった「おもてなし」とでもいうことになるのではないでしょうか。


「おもてなし」という言葉自体が、内容を具体的に表現しにくい言葉となっています。

ひらがなで表記されことがほとんどですので、日本語ならでは言葉ということができると思われます。

「もてなす」という感覚自体が、何か改めて意識して行う形式的なこととして捉えられてしまうものとなっているのではないでしょうか。


「もてなす」という言葉は中世の物語文学である源氏物語にもたくさん登場してくるもので、やまとことばであることが伺えます。

語源的に見てみると、「もて」と「なす」から出来ているようです。

なす(成す)は「そのように扱う、そのようにする」という意味があり、それに接頭語の「もて」がついたものとなっています。

「もて」は、動詞に付属して「意識的に物事を行う、特に強調する意味を添える」ということになるのだそうです。

つまり、「もてなす」は何かをする(なす)ことを意識して強調する場合に使う言葉であるようです。


源氏物語においても、決して良い意味にだけ使われていたわけではないようです。

そこには、ウソの前兆のような意味すらが込められている場合もあるようです。


日本語の得意なパターンのひとつです。

良い意味の言葉をことさら丁寧に表現することによって、そこに行き過ぎを込めることによって正反対の意味にもとることが可能になる表現をすることです。

本当に丁寧な表現なのか、ある意味では嫌味としての正反対の意味が込められたものであるのかは、表現されたものだけを見たたのでは判断ができません。

その言葉が使われた環境や、その環境における人間関係などが理解できたうえで判断するしかないのです。

しかもその判断は、表現した人にしかわからないものであることもありますし、明らかにそうだとわかることもあります。


ニュアンスとして、ほんの少しの嫌味の場合もあれば、思い切り正反対の意味を込めた場合もあるのです。

表現した人と同じ環境で、同じ人間関係を感覚として持てなければ想像すらできないことになります。

日本語の持つ感覚の一つに、同人化があります。

表現者との同化と言ってもいいのではないでしょうか。


それができるためには、単に環境やそこにおける人間関係が理解出来るだけでは足りません。

環境や人間関係を理解したうえで、表現者と同じ感覚を持っていなければ、その言葉の真に意味するところが分からないのです。

表現者の状況を理解するためには、表現された言語以外に様々なものを理解しなければなりません。


日本語を母語として持っていることは、似たような環境における似たような人間関係においては、同じような感覚を持つことができるということになります。

欧米型言語の感覚の基本である個が中心となっていては出来ないことであります。

その根源は日本語の感覚における個は、環境の変化に対して自己を適応させて変化していくことがあるからです。

絶対的な個の存在ではないからです。


日本語が自然に持っているホスピタリティは、彼らから見ると不思議なもののとして映っています。

しかし、日本語を母語として持っていること自体が、すでに彼らの感覚におけるホスピタリティなのです。

当たり前に日本語の感覚で活動していること自体が、彼らの感覚から見たらホスピタリティなのです。


日本語話者同士の間では、きわめて自然な「もてなし」であっても、それは相手を含めた環境に対して自らを適応させようという自然な行為の表れとなっているのです。

個を磨き上げることは、どんな言語の感覚においても行なっていることです。

しかし、欧米型言語に感覚における個の磨き方は、環境に対してより強い個としての影響力を持つ外向きのものとなっています。

日本語の感覚では、環境がどんな変化をしようとも、それに適応できる個を作るための内向きのものとなっているのです。


日本語の感覚そのものが、意識しなくともホスピタリティなのです。

それは「もてなし」であって、ことさら丁寧に表現する「おもてなし」の持つ両面生とは異なった純粋なものではないでしょうか。

私たちは、日本語話者以外に対しては「おもてなし」を発信する必要があると思います。

しかし、日本中での流行語としての「おもてなし」は、少し感覚が違うような気がしています。

自然な日本語の感覚に沿った活動こそが、「もてなし」ではないでしょうか。




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