この言葉もそうではないでしょうか。
「目くじらをたてる」三つの語からできている言葉です。
「目」「くじら」を「たてる」ですね。
「目」と「たてる」はありふれた語ですので、どうしても「くじら」に注目がいってしまいます。
「くじら」の音からは魚(動物)の「鯨」しか想像ができませんので、何か関係があるのかと思ってしまいます。
「目」に鯨がいるのか? その鯨は立つのか? そんなことはありませんよね。
「くじら」は古い言葉で、元の意味は「口(くち)」+「尻(しり)」で何かの端っこのことだそうです。
音が言いやすく短くなって「くじり」→「くじら」となったようで、「目くじら」は目の端っこの目尻のことを言うそうです。
「目くじり」ともいうようですね。
鯨とは全く関係がないようです。
また、もう一つ「くじら」は方言である「すまくじら」がなまって短くなったものだという説もあるようです。
「すまくじら」は日本海側の新潟から青森あたりの方言で、端っこや角・隅のことだそうです。
「隅」と上の「くじら」を合わせたものではないかと思われます。
そうすると「目くじらをたてる」が目じりを吊り上げることとして理解できるようになります。
そのような動作が行なわれる行動として、人の欠点を取り立てて非難する事を指すようになって来たんだと思われます。
鯨と関係があれば何か面白い話にでもなるかなと思ったのですが、そうはうまくいきませんでした。
「目くじら」の充て字として「目角」と書くこともあるようですが、これで「めくじら」とはなかなか読めないですね。
ついでに「目」を使った成句や言葉が気になりました。
どんなものがあるかなと思って見てみたら、あるわあるわ、嫌になるほど出てきました。
それでも一部を、順不同で並べてみましょう。
目を離す、目の黒い内、目に留まる、目が離せない、目を掠(かす)める、目に浮かぶ、目に角を立てる、目の薬、目を注ぐ、目に遭う、目を塞ぐ、目を見張る、目を盗む、目も当てられない、目も及ばず、目から鼻へ抜ける、目が光る、目に物言わす、目は口ほどに物を言う、目を光らす、目が利く、目が飛び出る、目を曝(さら)す、目が高い、目が眩(ま)う、目には青葉山時鳥初松魚、目に映る、目に見えるよう、目を側める、目を通す、目を落とす、目を剝く、目の色を変える、目が早い、目を潜る、目から火が出る、目を止める、目を立てる、目も遥に、目を向ける、目には目を、目にする、目に掛かる、目を転じる、目が行く、目引き鼻引き、目じゃない、目が出る、目が冴える、目を射る、目を丸くする、目あり目なし、目が覚める、目が点になる、目が遠い、目を肥やす、目が合う、目に余る、目もくれない、目を引く、目から鱗が落ちる、目の上の瘤、目が堅い、目をそばだてる、目の中へ入れても痛くない、目が肥える、目に障る、目に触れる、目が曇る、目に物見せる、目が無い、目に掛ける、目の保養、目の付け所、目に入る、目に一丁字なし、目の毒、目の正月、目が留まる、目を遊ばせる、目を逸らす、目を奪われる、目の敵、目が据わる、目にも留まらぬ、目を付ける、目を見す、目を長くする、目が回る、目を遣る、目を伏せる、目を細める、目で見て口で言え、目を白黒させる、目の下、目を眠る、目が届く、目引き袖引き、目を晦(くら)ます、目もあやに、目に付く、目が眩れる、目に見える、目を掛ける、目を開く、目を見る、目を配る、目を据える、目は心の窓、目を喜ばす、目が眩む、目に立つ、目と鼻の先、目は心の鏡、目を覆う、目を楽しませる、目を皿にする、目を凝らす、目を疑う、目を呉れる、目に染みる、目を回す、目が散る、目が近い、目を覚ます、目を三角にする、目をつぶる、(大辞林:三省堂より)
馴染みのあるものから、「?」となるものまで、ずいぶんあるものです。
「口」や「鼻」、「耳」に比べると圧倒的に多いのが「目」を使った言葉です。
それだけ「目」は、見ると言う機能以外にもいろいろな物や事に例えられていることになります。
人の感覚としても「目」を起点にした感覚が多いことを物語っているのではないでしょうか。
同じ資料のなかで、「目」の次に多かったのが「口」ですが、それでも「目」に比べたら半分以下です。
人が得る情報のうち、視覚による情報はすべての情報の60%以上を占めると言われています。
歴史ある言語が持っている言葉は、その言葉を見ることによってかなりのことがわかってきますね。
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