2014年8月9日土曜日

日本語の向こうにあるモノ(3)

日本語を母語として持っていると、誰に教わったわけでもないのに何気なく礼(会釈)をすることがあります。

礼をしようと思ってしていることではないのですが、その場の持つ感覚や雰囲気に対して無意識に礼をしていることがあったりします。


先の冬季オリンピックのフィギュアスケートで金メダルを取った羽生選手の表彰式の映像を覚えているでしょうか。

表彰台に上がる前に、小さく一礼していたことを覚えているでしょうか。

あの場面で礼をしろと教える人はいないでしょう。

本人の自然な感覚から出た行為だったのではないでしょうか。

あまりにも自然であったために、忘れている人が多いかもしれませんね。

彼はリンクへの出入りに際してもいつも礼をしているようです。


道場への出入りに際して礼をすることはよく見受けられることですが、自然に一連の動作の流れで行われている礼は見ている方でも礼をしていることを忘れることもあります。

反対に、取ってつけたように儀礼的に行われている礼は、礼をしている行為自体が浮いて見えるようです。


試合の場を勝ち負けの決着や順位をつける場と思っていると、目の前の相手は自分の手で打ちのめすべき対象となりどんな手段をとっても勝つべき対象となります。

あまりにも一方的なハンデとなる手段をとらないようにルールが定められます。

すると、ルールのなかでもいかに相手よりも有利に戦えるかの手段をとるようになります。

勝つことが最終目的になるとこれらのいたちごっこが行なわれます。


勝ち負け、順位の感覚が日本人においても当たり前になってきていますが、もともと日本人にとっての試合はその道において自らをより高みに導くための修業の場と言う感覚があります。

日本語に表現したときに○○道と言う呼び名のつく競技は、その意味合いがとても強いものではないでしょうか。


競技の場に対しては一種の神聖な場としての感覚があり、直接戦う相手に対しても自らの道を高めるための気づきを与えてくれるものとして師と似たような感覚を持つのではないでしょうか。

そのために、自然と競技の場や相手に対して礼をするという行為が生じているのではないでしょうか。


その道で一流と呼ばれるようになると、競技の場であっても自分自身も相手も俯瞰してみることができるようになり、競技を通して相手のことや自分のことのいろいろなことが感覚としてわかってくるようになるようです。

名勝負を演じる好敵手が、ほとんど会話をしたことがなくとも互いに誰よりも相手を理解していることはよくあることです。


日本語という言語についても、全く同じことが言えるのではないでしょうか。

相手と直接交わしているのは現実的な言語かもしてませんが、日本語が持っているより大きな領域では言語をきっかけとしながらもより広範囲な感覚を感じているのではないでしょうか。


上の図にある直接的な言語は黄色の点線です。

このブルーの領域を含んだものこそ日本語の姿ではないでしょうか。

文字のなかった時代の「古代やまとことば」より継承されてきていると思われるこの感覚は、共通領域と言う現代的な名称よりももっとふさわしい呼び名があるはずです。

誰もが意識することはなく感覚として自然に使ってきたこの領域のことは、「やまとことば」において表現されるのが最もふさわしいのではないかと思っています。

今まで使ってきた言葉で表現すると、神や仏や天と言うことに近い感覚だと思いますができればなるべく宗教色を出したくないという思いもあります。


そこで出てきたのが、万葉に書かれた言葉です。

音としては同じ音ですが文字としては二通りの表現がされています。

柿本人麻呂によっては「事霊」と書き表され、山上憶良によっては「言霊」と表現された言葉、「ことだま」です。


「古代やまとことば」においては「事」と「言」はともに「こと」であり、区別がなかったと思われます。

まさしくこの領域を表現するのに「ことだま」とは的を射た言葉ではないでしょうか。

「言」だけではなく、あらゆる「事」までを包含した感覚を言い表していないでしょうか。

「言霊」だけであれば、言葉からしか誘発されないことになり現実的な言語と言うモノから離れきれないことになります。

「事霊」がそこに含まれていることを確認できることによって初めて「ことだま」としてのひらがな表記の意味があります。


ふと浮かんだ、日本語に含まれる現実の言語以外の感覚は使っている自分たちが意識しないうちに頻繁に使っているものです。

この「ことだま」の存在を確認することで、世界から不思議がられている日本人の特徴の説明がつくのではないでしょうか。

この素晴らしい言語は、人として持つことができる最高の言語ではないでしょうか。

うまく使いこなしながら大切に継承していきたいですね。




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