細かな描写や説明をしようとするほど修飾語が増えて来ますので、文章が長くなります。
使う言葉が増えれば文章が長くなることは、他の言語でも同じなのですが、主語と述語の位置関係が大きく異なります。
他の言語においてはほとんどの言語の語順が、主語のすぐそばに述語が来るようになっています。
ほとんどの場合は、主語の次に述語があります。
修飾語や目的語はどんなにたくさんあったとしても、述語の後に続きますので、「何が(誰が)、どうした。」は文章の初めの数語で理解することができます。
対して、日本語は主語と述語の間に修飾語が入ってきますので、修飾語が増えると主語と述語の位置関係がどんどん遠くなってしまいます。
したがって、「何が(誰が)、どうした」を理解するためには、すべての修飾語が出てきた後の述語の登場まで待たなければなりません。
他の言語に比べて、人の話や文章を最後まできっちりと聞いたり読んだりすることがとても大事になってくるわけです。
文章になっているものは、文字によって再確認することも可能ですが、話し言葉はその瞬間から消えていくので、さらに注意が必要になってきます。
日本語の会話やコミュニケーションにおいて、特に「聞くこと」が重視されるのはこんなところにも大きな理由があります。
ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットと4種類もの文字を習得しなければならないだけでなく、もともとが長くなりがちな文章を最後まできちんと聞かないと内容が理解できないことは、相互理解のために必要な時間がどうしても多くならざるを得ないことになります。
何かを説明し理解してもらおうと思っているときに、話の腰を折られたり途中で遮られたりした挙句に意図が伝わっていない場合には、ほとんどの人が相手に対して怒りまでも感じることになります。
一旦そうなると、多少なりとも興奮状態になり、相手に口を挟ませないように一方的な話となりますので、相手の理解度合いを確認する余裕もなくなります。
最後は、「これでわからなければ、もう聞かなくてもいい。」というようなことになってしまうわけです。
ますます、短い時間のなかで正確に伝えることが求められる環境になってきています。
それと同時に、日本語を使っている私たちの感覚に中には、直接的な表現を避けた日本語独特の美しい表現を求める部分もあります。
ゆく秋の 大和の国の 薬師寺の 塔の上なる ひとひらの雲(佐々木信綱)
この和歌は、最後の「雲」が被修飾語となっており、それ以外の言葉はすべてが「雲」にかかる修飾語となっています。
さらには、修飾語の中にも「薬師寺の」→「塔の」→「上なる」という修飾語の関係があり、これ全体が「雲」を修飾している形にもなっています。
もうひとつ例を挙げてみます。
日本国憲法の前文の一部です。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
主語と述語の関係からすれば、「われらは、信ずる。」です。
この間にある言葉はすべてが修飾語となっています。
口頭でこの文章を伝えられたら、何を言っているのかよくわからないことになるのではないでしょうか。
より正確に詳しく伝えようとするとするほど、修飾語が増えてきます。
その割には、理解しにくいものとなっていくわけです。
話のうまい人には二種類の人がいます。
わかりやすい話をする人と、美しい言葉をリズムよく使って心地よい話をする人です。
日本語は大きな言語で、その表現力は限りなく豊かなものです。
しかし、話の目的に応じた表現方法をしないと、かえって受け取りにくいものとなってしまいます。
本当に、話のうまい人は、わかりやすさと心地よさの両方を兼ね備えています。
日本語は、修飾語の言語と言ってもいいくらいです。
主語はおろか述語までもが省略されることがよくあります。
それでも、違和感なくコミュニケーションができるのです。
一生懸命に説明しようとするればするほど、また相手に分かってもらおうとすればするほど、修飾語が多くなっていくのは仕方のないことです。
これを解消するためには聞き手の方の「きき方」が大切になってきます。
日本語は、一方的な話である演説やスピーチには向いていない言語です。
聞く側とのコミュニケーションがあってこそ、その力が生きてくる言語です。
「きく」力が話す力を導いてくれるものになっています。
「きく」には五つのチカラが必要です。
「聞く」「聴く」「訊く」「効く」「利く」の五つです。
これらについては過去のブログ、「きくこと」についてで述べていますので参考にしてください。
(参照:「きくこと」について)
修飾語の文化を継承していくためにも、「きき方」をしっかりと身につけておきたいですね。
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