2014年6月15日日曜日

伝える技術は、描写する技術

表現する力は日本人にとって大きな課題だと言えます。

色々な要因が考えられますが、大きくは文化・歴史的な要因と言語技術的な要因が挙げられるのではないでしょうか。

文化・歴史的な要因は、多くを語ることや自分自身を語ることを良しとせず、言葉にせずとも相手の意図を推察・感じ取ることを最上とする考え方です。

これは千年を超える環境の中で作られてきた精神文化であり、一朝一夕に変えることはできないと思われます。


もう一つの面である、言語技術的な要因は日本語が持っている特徴とも大きく関わっていることです。

世界の中でもその成り立ちにおいて仲間を持たない独特の言語である日本語は、あらゆる面で他の言語とは異なった特徴を持った言語となっています。

表記する文字の種類だけも、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットと4種類を使い分ける必要があります。

そのために、他の言語に比べると、基本となる言語の習得だけでも膨大な時間を必要としています。


各国における、義務教育の中での「国語」習得を見てみると、中国と日本が義務教育期間中ずっと「国語」の習得をしているのがわかります。

その結果としても、中学を卒業したレベルでもやっと新聞の一般紙が理解できるかどうかの程度であることもわかります。

中国と日本は漢字という共通の表記文字を持っています。

中国では小学校で訳2,000字を覚えなければならず、日本の中学校までに覚えなければならない漢字の数よりも多くなっています。

仮名を持たない漢字だけの言語においては仕方のないことだと思われます。


主な国では、中国と日本を除いた漢字を使用しない国の義務教育では低学年のうちに言語の習得を完了して、その後は言語を使った表現の技術の習得に多くの時間をかけていることがわかります。

国によっていろいろな特徴はありますが、個人としての表現から始まって、表現する対象がどんどん広がっていく中でさまざまな環境での表現技術を磨いていきます。

演劇を中心にしたイギリスやディベートを中心にしたアメリカなど取り組み方も様々となっています。


日本語については、義務教育終了時における能力測定の一つの目安として高校の入学試験があります。

そこで求められている「国語」の能力は、文章の読解力と語彙力確認のための書き取りがほとんどであり、表現力を見るものはないと言えます。

大学の入学試験においても、その内容はほとんど変わっていないと言えます。


人が生活してく中で、表現する技術が必要でないのならばそれでもいいと思いますが、実際は表現する技術が社会での人の生き方や評価を決定してしまう現実となっています。

各国の義務教育の中に、言語技術の基本を見て取れるのではないでしょうか。


最初にあるのが自己主張です。

自分の思っていることやして欲しいことを一生懸命話します。

わかってもらいたくて話しているのですが、自分のことしか考えていないのでなかなかうまく伝わりません。

そこでいろいろなことを考えるわけですね。

自分が思っていること理解していること人に伝えることのむずかしさを身に染みて感じることから始まります。

聞き手の方も黙って聞いているなんてことはしませんので、表現によって受け取り方が異なることを早い段階で感じることになります。


自分の持っている言葉で臨場感を持って伝えることを学びます。

「古い家があって・・・」と言うことを伝えるのに、「塗装の剥げ落ちた玄関の扉を開けると、ギギーと錆びた蝶番が鳴り・・・」程度の描写的な表現が有効なことがわかってきます。

一言で言ってしまえば簡単なのですが、それでは描ける状況が人によって大きく異なることを理解するのです。

どうしても話す言葉が多くなります。


彼らに対して「簡潔に」という言葉は禁句だと習ったことがあります。

詳しく聞く気がないよと言っているのと同じにとらえられるようです。

そのために使える時間を明確にしておかないときりがなくなることがあるようです。


描写する表現力はいたるところで役に立ちます。

描写の第一歩は、視覚です。

表現する対象物を決めて、視覚的にどのように表現したらイメージを共有できるかを試すことはとても有効です。

思わぬ効果をもたらす楽しいゲームにもなります。

頻繁に登場する「四角」や「丸」についても、人によって持っているイメージの違いに驚くこともあります。

視覚的な表現だけで、どれだけ対象物や与えられたテーマが伝達できるのかはワークショップとしてとても楽しく有効なことです。


視覚描写の次は音声描写です。

先ほどのドアの「ギギー」と言う音です。

これだけで、古さや錆びた蝶番のことを言わなくともイメージができます。

日本語は擬音に対する表現をとてもたくさん持っています。

擬音だけでどこまでイメージできるかは、音声描写の効果を確かめるとてもいい方法です。


「ぞろぞろ、ざわざわ、しーん、ぴーひゃら・・・」

これだけで、集まってきた人が騒いでいたのが、静まって音楽が始まったことがわかるのではないでしょうか。

しかもかなりの臨場感を持っていませんか。


さらに日本語の表現の豊かさを生かすために、感覚描写を意識しましょう。

「どきどき」「そわそわ」「いらいら」「どーん」「ぴた」など、感覚に関する言葉もとてもたくさんあります。

まずは自己主張・自分のことをわかってもらうための表現で、描写表現を使ってみましょう。

うまくいくと、身を乗り出して聞いてくる人たちを見ることができますよ。


童話や子どもたちの書物にはかなり使われている表現なんですが、大人になるとあまり使われなくなります。

どうやら子どもたちが理解しやすくための言葉だと思い込んでいる人が多いようです。

ひらがなと一緒ですね、子どもたちにわかりやすい言葉は、誰にでも理解しやすい表現であることをわかっておきたいですね。


ひらがな表現と描写表現は日本語の表現の原点です。

この使い方を知っておくだけで伝える能力は飛躍的にアップします。

酒を飲んでいるときの会話でも実験できますので、ぜひやってみてください。




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