2014年4月28日月曜日

母語習得のための環境つくり

先回は、言語習得における母語の大切さについて触れてきました。

それでは母語としての日本語をきちんと身につけさせるには、どのような環境を整えてあげればいいのでしょうか。


子どもは生まれた時から本能的に、母親を識別することはできるようになっています。

母親の心穏やかな時の、鼓動や言葉や感触に触れているときが一番安心できる状態であることを感じ取っています。

自分では言葉を発することができない頃からも、母親の言葉は聞き分けることができるようになっているようです。


2歳前後に「言葉の噴火」「言葉の爆発」と呼ばれる、一気にたくさんの(20~30語程度)言葉を発するようになります。

それ以前にでも、発することはできなくとも理解している言葉はあることがわかっています。

一人で歩けるようになってしばらくたったころですね。


ここから数多くの言葉を習得しながら、脳を代表とする知的活動のための機能を作っていくことになります。

この活動が4歳~5歳頃までかかって、5歳頃には基本的な知的活動のための機能がほぼ定まっているようです。

この時に習得していく言語が母語になります。

そのほとんどは母親から伝承される言葉になります。

生まれてから母語の習得期間においては、母親が子供に語りかけることが何よりも重要になります。


子どもの言葉に合わせて会話をしようとすることよりも、母親の言葉でたくさんのことを語りかけることがいいと言われています。

赤ちゃん言葉で語るよりも、母親が持っている普段の言葉で語りかけた方がいいようです。



3歳頃になると持っている言葉を使って会話ができるようになります。

ここまで来ると使える言葉が一気に多くなり、2語、3語の言葉も使えるようになります。

やがて、慣れないながらも助詞の「が」や「は」を使えるようになり、一緒であること表す助詞の「と」や方角を表す「へ」なども使いだします。


歩き方もしっかりしてきますので、活動範囲が広がってきます。

一緒に住んでいる人や、身近にいる人とも会話をするようになり、母親以外からの言葉の習得も増えてきます。


この段階では、なるべく多くの環境でなるべく多くの人たちと会話をすることが母語の習得に役立ちます。

母語を習得しながら、その母語を使いこなすための最適な機能に、脳を代表とすると各器官が発達をしていきます。

母語としての日本語を使うための最適な機能としては、母音の発生がしやすいように声帯が発達していきます。

母音が聞き取りやすいように聴覚が発達していきます。

この段階での母語は、日本語と言っても母親から伝承された言葉が中心ですので、きわめて個人的な言語となっています。


広い意味では日本語を使うための機能が整っていくのですが、それは極めて個人的な言語としての母語によるものとなっています。

もともと子どもはこのようにして母語を取得し、その母語によって知的活動のための機能を発達させていくように本能的に活動をしています。


幼児期の環境で大切なのは、この本来持っている本能的な活動を妨げるようなことをしないことです。

幼児期は母語の習得とそれによる知的活動のための機能の発達が最大の活動です。

それ以外の教え込みをすることは、本来のこの活動を妨げることにほかなりません。


母親が持っている言語を、この段階で変えることはできません。

しかし、母親が意識することによって伝える言葉を選ぶことはできます。

隠そうとしても無理なことが多いですね、普段の耳にする会話も子どもにとっては習得の対象となっているからです。


3歳以降である程度の会話ができるようになってきたら、異年齢者との会話の場面が大切になってきます。

おじいさんおばあさんとの会話や兄弟・親戚との会話などあらゆる場面での会話が、母語の習得と言語感覚の習得に役立っていきます。



この段階ではどんな教え込みをしても意味がありません。

記憶していないだけではなく、本来の母語習得から知的機能の開発の妨げとなるからです。


4歳の半ば過ぎくらいにほぼ母語の習得が完了し、基本的な知的機能が決まってくると、誰にでも訪れる現象があります。

「幼児期健忘」と言われている現象です。

それ以前の記憶のほとんどがリセットされるのです。

幼児期以前の記憶がないのはこのためです。


どんなことを教え込んで記憶させようとしても無駄なのです。

このような現象は生きている間では、病的な痴呆以外はありません。

発生するメカニズムについても解明されてはいませんが、万人に起きる現象であることは確認されていることです。

当然、記憶していた母語としての言葉もほとんどを失いますが、毎日使っているような言葉はそのまま新たな記憶として保持されていくことになります。

だだし、この時期の記憶の保持期間は肉体的な刺激を伴う強烈な記憶でない限りは1週間は保持されていないことがわかっています。

言葉のように毎日使うことによって日々書き換えられているような記憶でない限りは、1週間もすればほとんど覚えていないようです。


7,8歳頃の記憶の保持期間が約2週間程度であるという研究があります。

幼児期の週に一回程度の習い事は、幼児期健忘を待つまでもなくほとんど記憶されていないということになりますね。

母語としての言葉の記憶は幼児期健忘によってリセットされてしまいますが、母語によって開発された機能や言語感覚は記憶ではありませんので失うことはありません。

人としての活動の基本がここに出来上がっていくことになります。


幼児期健忘を経過しても日々使っている言葉は、新たに書き換えられながら記憶されていきます。

幼児期健忘前に使って記憶してた言葉で、使わなくなっていったものが記憶から消えていくことになります。

教え込みによる英才教育がほとんど役に立たないのは、この幼児時期健忘の現象によるものであるとする説もあるようです。


教え込みは結果として子どもにストレスを与えて、本来の習得と発達を阻害することになります。

幼児期は余分な教え込みをせずに、本来持っている活動をしやすい環境を整えてあげることが一番大切になります。

環境を整えながら、子どもが習得していくのを待つという姿勢が大切になります。


幼児期の教育の失敗は、そのほとんどが何かを教え込もうとしたことよって起きているものです。

しかも、親はそれを良かれと思ってやっていますので、子どものためになっていないことをわかっていません。

子どものことよりも親の自己満足のためにやられている幼児教育がほとんどです。


教育者がよく言う、「5歳までの環境が大切」ということを、5歳までに何かを教え込まなければいけないと思い込んでいる親が多いことに驚かされます。

よけいな教え込みをしなければ、子どもの可能性はもっともっと広がっていたのではないでしょうか。

社会で生き抜いていくために必要な基本的な能力は「コミュニケーション力」です。

つまりは言語力です。

人の知的活動はすべて言語よってなされています。

もっともっと言語に対して目が向けられてもいいのではないでしょうか。



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