言語学では20年以上前から使われていた概念のようですが、一般にはほとんど広まっていないものでした。
気になって公開されている資料などから「母語」について調べていった時に、何でこんな大切ことが知られていないのか驚いたものでした。
今でも「母語」の社会での認知においては、当時とほとんど変わっていないのではないかと思います。
改めて、「母語」の特徴についてみてみましょう
- 幼児期にしか身につかない言語で、主に母親から伝承される「ことば」で構成される。
- 人が生まれて初めて持つ、一人ずつ異なった基礎言語である。
- 脳を代表とする、人の知的活動に必要な各器官の機能を決定する言語である。
- 二度と書き換えることのできない、知的活動の核となる基礎言語である。
母国語とよく間違われることがありますが、母国語よりもはるかに大切な言語であることはわかっていただけるのではないかと思います。
特に注意を要するのが、この言語を習得する環境です。
幼児期ですから、自分で母語とする言語を決めることはできません。
親が母語を決めてそのための環境を整えなければいけないのですが、母語自体の存在をほとんどの親が知らないのです。
両親が日本人で日本語を母語としている者であれば、自然に日本語を母語とする環境になっていくと思われますが、そうならない環境を親が作っている場合もあるのです。
幼児は言語の区別などつきません。
日本語の環境や英語の環境やその他の言語の環境があれば、その言語になじんでいきます。
母親が使っている言語のほとんどが伝承語として子どもに伝わっていきますが、母語のことを理解していない親は幼児期のその環境において、子どもに無理やり他の言語を教え込もうとしたりします。
幼児期の英語教育がその典型です。
幼児期に英語を教え込むことの弊害は、幼児期に英語を教え込む危険(1)(2)で述べていますので参考にしていただきたいと思います。
単純に言ってしまえば、日本語も英語もどちらの言語感覚もわからない子どもにしてしまうことになります。
決してバイリンガルにはならないのです。
日本語を母語としてしっかり習得できる環境があるにもかかわらず、おかしなことを教え込んだことによって子どもを苦しめることになるのです。
このあたりのことは、海外で幼児を育てる環境にも通じることがあります。
海外子女教育振興財団が母語についての注意を警鐘しているパンフレットが発行されています。
(参照:母語の大切さをご存知ですか?)
広く読まれて欲しいものだと思っています。
日本語は世界の言語の中でもきわめて特殊な言語となっています。
その表現力の豊かさや、使用する文字種の多さなどは他の言語とは比較にならないくらいです。
したがって、日本語は基本的なことを身につけるだけでも多くの期間を必要としています。
知識はすべて言語で習得していきます。
日本の学校教育においては、学習言語として「国語」が定められています。
方言を含めて存在する多様な日本語の共通語が「国語」だと考えたらいいと思います。
教育を受けて知識を習得していくためには、学習言語としての「国語」の習得が必要になります。
他の国の言語における「国語」の習得はほとんどの国の学校教育では、小学校一年生で完了しています。
母語としてその国の言語を身につけてきた子どもたちにとっては、その期間で十分なのです。
しかし、日本語は母語として日本語を身につけてきた子どもたちにとっても、小学校4年生、10歳頃までかかってやっと「国語」の基礎が習得できるほどの大きな言語なのです。
母語としてしっかりと日本語を身につけていない子どもにとっては、学習言語としての「国語」の取得が難しくなります。
その影響は算数が苦手になったりすることに現れてきます。
(参照:算数が苦手な子は国語をやり直せ)
特に幼児期に英語を教え込まれた子供は、日本語の言語感覚自体がおかしくなっていますので、周りの子どもたちと同じ感覚で日本語を受取ることができません。
先生の話を聞いても、日本語を母語として身につけてきた子どもたちとは理解の仕方が違ってしまうのです。
幼児に言語の区別はつきませんので、日本語を母語とする母親と母親以外のものから教え込まれる英語の区別ができません。
両方の感覚を一緒にした言語を母語として持ってしまうことになります。
世の中に存在しない言語です。
英語でも日本語でもありません。
幼児期は母語を身につけるためにあるようなものです。
ここでしっかりとした日本語を母語として持つことがとても大切になります。
母語はほとんどが母親からの伝承語です。
母親の持っている日本語がとても大切になります。
母親の持っている以上の言語は伝承できないと思った方がいいでしょう。
母語のことを知っている母親と、全く知らない母親では、大きな差がついてしまうのではないでしょうか。
当然、そのあとの学習言語である「国語」の習得においても同様ではないでしょうか。
あらゆる知識や試験はすべて学習言語である「国語」によって行われます。
言語は知的活動のための唯一のツールであると同時に、コミュニケーションにためのツールでもあります。
幼児期の母語の習得が、人として生きていくためのすべての基本になっていることだと思います。
母語の習得は、遅くとも5歳までには完了してしまいます。
教育関係者がよくいっている、「5歳までの環境が頭のいい子を作る。」とぴったり一致しているのは偶然ではないと思われます。
母語は、そのための環境を整えることができればどんな言語でも習得することができます。
しかし、世界でも他に類を見ないほど大きな言語である日本語を母語として持っているメリットは計り知れないと思います。
日本語を母語として持っている人は、いくつからでも英語を使いこなせるようになると言われています。
英語を母語として持っている人は、生涯かかっても日本語を使いこなせるようにはならないと言われています。
海外の言語学者で日本語を研究した人で、自分の子どもの母語を日本語にした人がいます。
母語の大切さと同時に日本語の素晴らしさを知っていただきたいと思います。
そうすれば、自然と日本語で母語を習得することの素晴らしに気が付いてもらえると思っています。
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