また、それ以上に他の言語を母語とする者にとっては、日本語の言語感覚は一番遠いところにあるものでり、理解することすらが難しいものとなっています。
日本語だけが世界の他の言語とは異なって、言語としての源流を共有する言語がないものとなっているからです。
文字としての漢字の源流は中国であり、その系統では中国語を源流とすると言えないことはないですが、日本語話者においては英語も中国も同程度に理解できないものとなっています。
むしろ、英語のほうが簡単に理解できるものとなっています。
音としての日本語の基本は仮名であり、この仮名は日本で生まれた日本にしかない言語となっています。
そして、この仮名は文字のない時代の「古代やまとことば」を継承している言語です。
世界委で一番多い言語の仲間は、アルファベットを使っている言語です。
文字言語としてアルファベットを使用している言語はすべて言語としての源流が同じです。
そのために言語感覚も近い物があります。
アルファベットで表す音が違っていたり、飾り文字や符号文字を使う言語もあれば、アルファベットの一部しか使わない言語もあります。
その源流はギリシャ・ローマとなっていますので、基本的な言語感覚はどの言語を見てもアルファベットを使っている言語については共通していることがたくさんあります。
アルファベット使用言語から一番遠いところにいる言語が、漢字を使用している言語ではないでしょうか。
アルファベット使用言語の話者が約20億人で世界で一番使用者が多いものです、二番目が漢字使用言語の話者です。
中国が含まれるの12億人強となっています。
日本語は、文字種、語彙、表現においても世界で一番大きな言語となっています。
他の言語を母語とする者が日本語を使いこなせないのは、自分の持っている母語よりも日本語の方が大きいために、母語では理解できないからです。
反対に、日本語はおそらく世界で一番大きな言語ですので、日本語を母語とする者は他のどんな言語も使いこなすことができるようになります。
幼児期の4歳頃までに基本的な習得を終えた母語は、生涯書き換えることができませんので、その人固有のものとなっていきます。
知的活動のための体の機能の発達も、脳を初めとしてすべてが母語を使うために最適になるように発達していきます。
日本語を母語とする場合には、声帯の発達過程で英語で言うLとRの音を出せる機能が退化していきます。
反対に、他の子音言語を母語とする者では、完全母音のための発声機能が退化していくことになります。
これらの基本機能がほぼ完成するのが5歳前後と言われています。
世界のなかで、完全に孤立しており言語の性格として一番特殊性を持っているのが日本語です。
日本語を母語とする者が、外国語を身につけることは、他の言語を母語とする者が日本語を身につけることよりもはるかに簡単です。
まず前提として、きちんとした母語として日本語を使いこなせていることが必要です。
人の思考は母語でしかできません。
他の言語を使うということは、母語でなされた思考や表現をその言語に翻訳することを意味します。
1981年に書かれた木下是雄先生の名著、「理科系の作文技術」の書かれたいきさつがあります。
理科系の論文は英語で書きあげなければいけません。
10年近く英語を学んできながら、学生たちに指導するのは研究や実験の内容ではなく論文のための英語がほとんどだった先生が、何故だろうと考えた結果がこの本になっています。
学生たちは英語ができなかったのではないのです、日本語ができなかったのです。
このことに気付いた先生が書かれた本が稀代のロングセラーになっているわけです。
もちろん言語としての英語の特性は学ばなければいけません。
それは日本語との違いとして理解できればいいだけです。
その英語の構文と言葉に翻訳しやすいように、日本語で考えればいいだけなのです。
第二言語を身につけるためには、母語を使いまわせる能力が必要なのです。
英語を身につけるためには、日本語を使いこなせる能力が一番必要ということです。
英語に限らず、他のどんな言語でも同様です。
それは、日本語の言語感覚が他の言語よりもずっと大きいから可能なことです。
英語を母語とする者が、日本語を使いこなすことができないのは、英語の言語感覚が日本語よりもずっと小さいからです。
母語として持っている言語の思考をこえることはできないのです。
単なる表現の仕方として、日本語の表現を丸覚えして、使用場面によって使うことはできるかもしれませんが、その時の言語によるニュアンスや感覚は永久にわかりません。
日本語を母語として持つメリットの一つはここにあります。
日本語の豊富な語彙と表現方法、語順が自由な緩い文法、これらが言語としての大きさを作っているとともに、どんな言語に対しても翻訳することができる日本語表現を可能にしているのです。
翻訳すべき言語の単語や構文は学ばなければいけませんが、その言語での思考は永久にできないので、同じ言語感覚を持つことは不可能です。
しかし、はるかに大きな言語および言語感覚を持った日本語からは、その言語の感覚を理解することが可能になるのです。
外国語を学ぶ、身につける一番早く確実な方法は、日本語を使いこなすことです。
何十年も前から指摘されていることなんですね。
国語の成績の悪いものは、他の教科をどんなに学んでもすぐ伸びが止まってしまいます。
国語の成績が良いもの、本をたくさん読んでいるもの、たくさんの表現をしているものは、いつから始めてもどんなことでもどんどん吸収していき伸びていきます。
理解が速いのとコツを掴むのも早いですね。
母語で考え表現したことを、翻訳していくのが他の言語を使うことです。
他の言語での思考はできません。
会話や、夢や、議論の中でその言語の中の単語や構文を選択していくことはできますが、母語以外の言語での思考はできません。
母語を磨いて使いこなせるようにしていくことが、外国語を身につける一番いい方法ですね。
しかも、日本語というとんでもなく大きな言語を母語として持っているからできることです。
他の言語はほとんどが6歳頃には使いこなせるようになっています。
日本語は、基本的な習得だけで10歳くらいまでかかります。
さらに使いこなせるようになるには最低でも小学校いっぱいはかかってしまいます。
仕方ないですね、とんでもなく大きな言語ですから。
その間に、他の言語を無理やり学ばせようとしても無理なことです、母語の使いこなしを邪魔することになってしまうだけです。
日本語を母語として持っていることは、決してメリットだけではありません。
しかし、日本語の特徴はしっかり理解しておきたいと思います。
場面によってはメリットともデメリットともなることです。
特徴として考えれば、いいも悪いもないですよね。
生かせるところで生かせばいいわけですから。
(参照:気づかなかった日本語の特徴)