2014年2月15日土曜日

外国の言語教育(1)・・・アメリカ

今回から数回にわたって、外国の義務教育における言語教育について見てみたいと思います。

特に、英語圏、フランス語、ドイツ語との比較をしてみると面白いのではないかと思いつきました。

日本の学校教育における言語教育の問題については、実情とともに提言までをさせていただきましたが、その内容と比較するべく外国の言語教育の実情が紹介できていませんでした。
(参照:国語教育の問題について(1)~(5)

気になっていたことですが、少し資料が集まりましたので紹介させていただきます。

なるべく義務教育を中心に見ていきたいと思ってはいますが、そこまでたどり着けない場合もあると思いますので、高等教育からの推測なども交えていきます。






まず第一回はアメリカですね。

アメリカは承知のように州単位の行政になっており、連邦としての統治よりも州としての自治が発達している国です。

連邦憲法はありますが、各州ごとに憲法を持ち、義務教育についての規定も州ごとの憲法や学校法・教育法で規定されています。

したがって義務教育の対象年齢も州によって異なっている場合もあります。
6~18歳の13年間の義務教育を定めているカリフォルニア州があると思えば、7~16歳の9年間と定めるイリノイ州のようなところもあります。

義務教育以降への進学率が日本よりも若干低いのは、義務教育のカバーする年齢が日本よりも上までだからもしれません。

法律ではありませんが、国家の教育戦略として定めているものが、2010年に発表された全米共通学力基準です。
ブッシュ政権時に基盤となる学力の格差是正として「リーディング・ファースト」が徹底的に実施され、小学校3年生までに読解力の基礎を備えることが図られてきました。

オバマ政権でも学力の向上は変わりませんが、高等学校までの基準が明確にされています。
その内容は、大学進学や就職を保障する学力でなければならないとされています。

高等学校以降の選択は就職であろうと大学進学であろうと、その学力は同等に保障するものであることとされています。

大学進学は学校を続けると言う感覚ではなく、高等学校を卒業して社会へ出ていく選択肢のうちの一つが大学進学であると考えられています。

したがって、
大学生と言う日本のような身分上の特権は存在せず、扱いは就職して社会活動をしている人と変わりはありません。





このような状況下で求められる国語力は、ずばり「社会で生きるチカラ」そのものです。

社会に流通する文章は多彩な語彙を含んでおり、それを読み解くことが第一歩であると考えられています。
そのために、小学校3年生までに読解力の基礎を備えて様々な文章を読み解くことの経験を重ねていきます。


高等学校の国語科では1年間で10冊程度の本をそのまま教科書として使用しています。
教室の本棚には生徒の人数分だけ本が揃えられています。

日本の教科書のようにその一部を「さわり」として扱うのではなく、本の全編を通じて作者の構成に着目します。
その構成を中心にして、作者の主旨・提言がどれくらい作品として成功しているのかを分析します。

シェイクスピアの作品などは古典文学として扱われて、現代語訳との対比なども行われるようです。


小学校から高等学校学校までかなりの本を読むことになります。

先生は生徒個人に合わせて読むべき本の指導をして、その読解度の把握を怠らないようにするそうです。


アメリカにおける言語教育は、会話・議論中心と思われがちですが、それは小学校低学年から高等学校まで根底にずっと流れているものです。

「話す・聞く」については、それぞれのステップで確実に以下のチカラが付くように実施されています。

 小学校: 二人でテーマを決めて話し合う(talk)
 中学校: 三人以上で協調的に話し合う(discuss)
 高等学校: ルールを決めて話し合う(debate)
 大学: 結論に達するまで話し合う(argue)

小学校でこの内容がどのように指導されているのかは、以下の資料がとても参考になります。

小学校の3学年目の(5歳からですので、日本では2年生にあたる)国語科の成績表の項目が公表されていたので転記しておきます。
他の教科に比べて、国語科が一番細かく分けられているようです。

① 読解力 (Reading)
* 内容の理解度 (Comprehension)
* 流暢さ (Decoding/ word attack):文章や単語を読めるか

② 作文 (Written Language) 
* 考えをわかりやすく書けるか (Express ideas clearly)
* 文法・構文 (Mechanics)
* スペル (Spelling)
* 文字の書き方 (Handwriting)

③ スピーキング (Oral Language)
* 考えをわかりやすく伝えられるか (Express ideas clearly)
* 小グループの議論に参加できるか (Participates in small group)
* 大勢の人の前で自信を持って話せるか (Demonstrates confidence before a group)
* クラス全体の議論に参加できるか (Participates in whole group)

一番アメリカらしいのが③ですね。
小学校低学年の時は③を徹底的に指導されるそうです。
学校によっても評価の内容は異なるようですので、あくまで参考と言うことでしょうが、今まで見たことがないだけに面白いですね。

②の作文については、論理的な表現方法として小学校から丁寧な指導が行われています。
その中の一つに「パワー・ライティング」と言われる表現方法があります。

論理的な主張のためには、一般的な文書から裁判所への提出文書までこの手法が取られるということです。
参考になりそうな気がしていますので、もう少し調べてみたいと思います。


アメリカが2010年に打ち出した言語における国家戦略は、各国の言語教育の実態と学力を詳細に調査したうえで定めたものだと言われています。

それまで会話と議論が中心であった国語科が、読解力向上に努めてきました。
そしてさらに、口頭ではなく文字による表現力の向上に力を入れてきています。

英語を学ぼうとする他国に対しては、徹底的に会話を中心とした指導を強要しながらも、自国の教育においては読解力と文字による表現力の向上を目指しています。

彼我の比較と分析を怠らずに、具体的な手を打ってくるアメリカの姿勢は見習うところが多いのではないでしょうか。