2013年10月8日火曜日

きくことと語感

「きくこと」を構成する感覚は先回ふれたとおりの、「聞く」「聴く」「訊く」「効く」「利く」の五つです。

これらの感覚を研ぎ澄まして、相手に精確に伝えることを行うわけですが、「きくこと」でやることは精確に伝わっているかどうかを確認することだけではありません。

精確に伝えるためには、伝えるべき相手の語感をつかんでおかないと大変苦労をします。



世の中には様々な語感がありますが、人にはそれぞれ受け入れやすい語感があります。

それは育ってきた環境や仕事の環境によって変わってきます。

また、一番よく触れている語感に対して、嫌悪感を抱く場合もありますので、必ずしも受け入れやすい語感が一番よく触れている語感と一致するわけではありません。


ビジネス上では正確さを重視しますので、共通の語感を育成しますが、社内を離れた交渉ごとにおいては相手の語感を重視せざるを得ません。

受け入れやすい語感は一人ひとり異なりますので、本気で理解してもらいたい場合は相手の受け入れやすい、好きな語感を知っておく必要があります。


同じ内容であっても、自分の好きな語感で入ってきた場合は理解しやすくなりますし、反対に自分の嫌いな語感で入ってきた場合は、どんなにいい話であっても理解しにくくなります。

通常の場合は理解してもらったうえで同意してもらうことを目的としていますので、わざわざ同意しにくい語感を使うことは避けておきたいものです。


「きくこと」によってすることは相手にどれだけ正確に伝わったか確認することです。

また、どのような語感を用いたら伝わりやすいのかを見つけることです。

語感には論理が含まれます。
論理が現れたものが語感ということもできるでしょう。


具体的には漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベットの使い分けのことを語感と呼びますが、文字の使い分けの基本にあるのは論理の展開です。

論理にも種類がありますので、語感の違いは論理の違いを表しているということもできるでしょう。


通常の場合は、一番慣れ親しんでいる語感が一番理解しやすいものと思われますので、事前に聞き手の仕事がわかっていれば、受け入れやすい語感が想像できます。

あるいは、理系ー技術者・エンジニアなのか、文系ー営業・販売なのかでも基本的な語感が異なりますので参考になります。


実際には一人ひとり異なりますので、発信しながらの「きくこと」もとても大切なことになります。

わざと違うと思われる語感を使用して、反応を「きく」ことも必要になってくることでしょう。


理解してもらうことと、共感や同調を得ることとは異なります。

理解してもらうためには、語感を中心に少しでも聞き手の理解しやすい手法を選ぶ必要があります。

多くの場合は、理解してもらった後で、何らかの行動を期待することになるわけですが、最初から、共感や同調を求める場合にはきちんとした理解が必要のないことが多くあります。

あるいは、精確な理解をされると邪魔になる場合が出てきます。


一方的なプレゼンテーションなどがその例です。
いわゆるステージでの演劇型です。

理解を求めるためには、聞き手の理性・思考に訴える必要がありますが、共感・同調についてはむしろ聞き手の感情に訴えた方が効果があります。



プレゼンテーションのテクニックとしてはこちらを重視する場合もありますね。

オリンピック招致のためのプレゼンはまさしくこちらのタイプです。

判断のための論理的な理解を提供するのではなく、一時的でも構わない扇動的な共感を求めるものです。


もちろんコミュニケーションの目的は様々あります。

何らかの結果行動をもとめて行うものもあれば、知識の取得のためのものもあります。

知識の取得のつもりで参加したのに、行動を求められる結果になって困惑したことはありませんか。

おそらく、話の途中の語感で、自分が来た目的と違うことを感じたと思います。


話し手側の意図と、受け手側の意図がずれるとおかしな雰囲気が生じて、違和感を感じるようになります。

違和感を感じる人が増えてくると、話が落ち着かずに宙を漂うような感覚が出てきます。

いわゆる、スベッている感じですね。

コミュニケーションの目的をはっきりと持って、まずは理解してもらうことを優先した語感を使っていきたいですね。