2013年10月31日木曜日

欧米の言語教育について

学校教育における日本語の教育内容は、国語科の教育指導要領で規定されています。

その中では基本的な項目として以下の3つが取り上げられています。

「A話すこと・聞くこと」「B書くこと」「C読むこと」



欧米の言語教育でこれに対応する内容を見出してみると以下のようになります。

言語技術(Language arts)という大きなデザインの中で組み立てられており、その内容は、「聞く・読

む」「考える」「話す・書く」と分けられています。

既に気づかれたと思いますが、欧米の場合は情報の流れに基準を置いた分け方になっています。


情報を取り込むインプット技術としての「聞く・読む」。

インプットされた情報による「考える」技術。

そして、考えたことを表すアウトプット技術としての「話す・書く」です。

このすべてが言語によってなされることを前提とした教育となっています。


日本においては「話すこと・聞くこと」として一緒になっていることと比べると面白いですね。

そして「考える」ことが言語教育の対象として明確に位置づけられています。

思考が言語によってなされることを踏まえた「考える」ですね。


欧米の言語教育においてはその根底にクリティカル・シンキング(批判的思考)の考え方があると

言われています。

目標とするのは、自立してクリティカル・シンキングができること、考えたことを今度は口頭や記述

で自在に表現ができること、そして、最も重視しているのが自国の文化に誇りを持つ教養のある国

民を育成することです。



グローバルスタンダードの言語教育は、どのように説得すれば相手が納得するのか、どのように交

渉すれば自分たちとって有利に議論を運んでいけるのかといった方法論が中心です。

つまり、レトリックや弁証法、論理学といったところから出発しています。

これは、ギリシャ・ローマの文化が広がるのに伴い広がっていった教育で、そのために現在、どこ

の国でもほぼ同じような内容の言語教育が行われているようです。


相手に勝つことによって生き残っていくための言語技術と言えるでしょう。

生きていくための言語技術は幼少期より具体的に、インプットー思考ーアウトプット技術として教育

されていきます。

力によって相手をひれ伏させて侵略していったギリシャ・ローマの指向そのものです。


それに対して日本の教育指導要領における言語教育の基本目標は以下の内容です。

「国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像

力及び言語感覚を養い,国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる。」


極めて日本語の特徴の出た何とも分かりにくい表現です。

読点があるとはいえ、何とも長い一文です。

単純にしてしまえば、いろいろな力をつけて伝えあう力を高めることと、国語を尊重する態度を育て

ることの2点です。

相手に勝って生き抜くことよりも、伝えあうことで共に生きていくを目標としていることが明らかで

す。

欧米、グローバルスタンダードとは言語教育の目標そのものが違うのです。


言語に限ったことではありませんが、世界で一般的なのは問題解決型の教育です。

解決するためのプロセスがあり、そのプロセスを自分たちの頭で考えさせる、これが中心になって

います。

一方、残念ながら日本の場合は、問題があったら正解があり、多くの場合選択式でいくつかのうち

の1つの正解を選ぶというものです。

それが正解なのかどうかわからなくても、とにかく正解として選ばなければいけない。

こういう教育を積み重ねている限り、だれも自分の頭で考えるようにはなりませんね。

受験に勝ち抜くためには、いかに正解を見つけるか、に終始することになります。


見てきたように、日本においては「考える」技術を教える学校教育がありません。

欧米では言語教育の中で、インプットー思考ーアウトプットの中心として、「考える」技術としてのク

リティカル・シンキングの習得を目指していきます。

これが人として生きていくための技術となります。



日本では緩やかな思考として道徳的な人道的な思考が根底に流れていると思われますが、道徳

の時間がなくなったこともあり、学校教育で「考える」技術を教える場面はありません。

人として生きていくための技術は、学校教育以外の生活の中で身につけていくしかありません。


日本語の特徴は言語そのものが持つ部分が大きいですが、世界のスタンダードからあまりにもか

け離れた言語教育にもその要因があると思われます。

世界の言語教育に合わせる必要はないと思います。

せっかく持っている特徴が薄れる可能があります。


しかし、個人にとっても世界との交渉を抜きにしては存在できない時代になってきています。

人が生きていくための一番の基本である言語について、どのような身につけ方をしてきたのかを知

っておく必要はありそうですね。

日本語の特徴を生かすためにも、日本だけがきわめて特殊な言語教育を行っていることを知って

おくことは大切ですね。