日本語を母語とする人たちが、日本語で会話してもそれぞれの経験した環境によって語感が異な
ると、話している内容が伝わりにくいことが分かって来ました。
それぞれの人の日本語はどのようにして、形成されているのでしょうか。
どの時点で、一人一人の個性が現れて語感が作られていくのでしょうか。
純粋に日本語環境で育ってきた人については次のようになっていると思われます。
母親からの伝承語としての母語が4歳くらいまでに習得され、小学校入学前くらいに基本的な母語
の習得を完了します。
ただし、子供本人にとってはこの母語についての意識や記憶はほとんどありません。
小学校に入学すると様々な知識を身につけるための学習言語を習得します。
母語は母親から伝承されたきわめて個人的な言語ですが、学習言語は全国的な教育カリキュラム
による画一的なものです。
この学習言語を習得しながら、その学習言語で表現された様々な教科を学んでいきます。
これが小学校の中学年、年齢的には10歳前後まで続きます。
この時点での個人差は、学習言語の習得についての個人差であり、個性とは異なるものです。
小学校の高学年になると、身にけた学習言語での思考・理解ができるようになってきます。
学校での知識以外に読書やいろいろな経験によって、個人的に習得できる知識や言葉に個性が
出てきます。
それでも、中心となる学校生活における言語は学習言語ですので、同じ言葉に対しての理解は全
員がほとんど同じ理解となります。
テレビや各種メディアより発せられる言葉も、学校での友達との確認作業によって、ある程度の共
通理解に立った言葉として取り込まれていきます。
学習言語の中心となるものが、漢字の読み書きと言葉の意味の習得です。
国語科を中心に全国統一的な解釈を身につけていきます。
親や地域が持っている方言や独特の言葉やアクセントは、母語を補強しながら学習言語外の言語
として習得されていきます。
教える先生が方言や独特のアクセントがある場合には、学習言語そのものが影響されることがあ
ります。
広い意味での関西弁や大阪弁は、身につけた生徒には学習言語そのものになっていると思われ
ます。
中学校になってくると、学習言語として教わるものは一段と減ってきます。
新たな語彙や教科の専門用語として学ぶものはあっても、学習言語そのものを学ぶことは激減し
ます。
国語科の内容も、読解や漢字の読み書きが中心になります。
感受性が非常に高い時期ですので、この時に触れた書物に影響を受けて独自の語感を身につけ
る者も出始めます。
しかし、全体としては学校という極めて狭い社会での、共通理解のための学習言語としての語感を
身に着けていると言っていいと思います。
その後、高校や大学あるいは社会に出ながら、そこに馴染むためにそこで理解しやすい語感を身
に着けるようになります。
専門性や世代の幅や接する業界などによってかなり幅広い語感が存在します。
それぞれの環境に馴染むためにそこに適した語感を身につけていくことになります。
専門的な言葉もあるし、同じ言葉でも特殊な意味や言い回しが存在します。
標準的に持っている母語や学習言語を基本としながらも、それぞれの環境に応じた語感を身に着
けるようになります。
保育士さんの語感と中央官庁の役人の語感の違いは、とても同じ日本語とは思えないほどのもの
になっています。
大工さんの語感と芸能プロダクションのマネージャーの語感の違いは、普通の皮が成り立たないく
らいのものとなります。
それでは、みんなが共通に持っている持っている語感はどこにあるでしょうか。
そうです、学習言語の一番初めです。
そこにあるのは「ひらがな」です。
漢字の学習はほとんど熟語に関しての音読みが多くなっています。
基本的な言葉である訓読みは、もともと音としては存在していたものに意味をつけるために漢字表
記を付け加えたものです。
母語もひらがなで成り立っています。
音読み漢字や音読み熟語をひらがなで表記するとかえって分かりにくくなります。
漢字自体に意味があって、文字として見ることによって理解ができるからです。
訓読み漢字は、音の方に意味があります。
音読み漢字以外を「ひらがな」で表記してみてください。
どんな語感を持っている人でも、ほとんど同じ理解ができるはずです。
倒置法によって語順を入れ替えて強調してみても、ひらがなで表記されているとその強調まで同じ
語感として理解できます。
分かってほしくて表記してるわけですから、間違った理解はしてもらいたくありません。
正しく意図を理解してほしいところです。
「ひらがな」はそんな時に効果があります。
全部を「ひらがなにする必要はありません。
大切なところ、間違って理解してほしくないところなどは「ひらがな」を併記すると、理解の共通性が
高まります。
かしこまったビジネス上の文書の慣れてしまっていると抵抗があると思います。
自分が携わっているビジネスの環境に生涯浸っていられれば、こんなことは必要ないでしょう。
会社を離れたときに一番疎外感を味わうのが、今までの語感が通じないことだそうです。
早くから、普通の社会での交流を持っておかないと、染みついてしまった語感は自分では修正が
難しいようですね。