2013年8月27日火曜日

脳科学から見た日本語の特徴

言語としての日本語の特徴はいろいろな面から見てきましたが、脳科学の点からこれを研究した人がいます。

今までも部分的には引用していますが、1978年に「日本人の脳」を著した角田忠信氏です。

言語学者であり脳外科の医者であり脳の障害における言語障害への影響を研究した人です。

右脳左脳の機能とどこに言語野が存在するかの実験的研究から、日本人の特異性を指摘した貴重な資料を世に出してくれました。

言葉を失った人に何とか回復の道はないか、脳に障害を負った人に何とか言語を失わずに治療できないかを追い求めた人です。


角田氏の研究の全文を引用することは不可能ですので、焦点を絞って要約で伝えたいと思います。


人間の大脳は形の上では左右一対で対称的になっているが、左右の脳が取扱う対象は夫々分担が違っている。

欧米の研究によれば脳の左半球には科学技術的なものの考え方を支えるような合理的分析的思考、言語、 計算などの中枢があり、右半球には芸術や宗教的心情の基盤となるような直感的・総合的・非言語的な認識の中枢がある。

欧米人は左の脳で言語(特に子音を含む音節単位の母音)、数計算を取扱い、右の脳で音楽、機械音、母音、自然の風の音、虫の声等に対応する、と考えられた。……

それ故、欧米先進国は左脳主導の文化(科学・産業)が発達し、後進的第三世界では右脳主導の文化(宗 教・芸術)が形成されて来たということが出来る。

そして日本は先進国であるから当然欧米型であろうと思われていた。
ところが角田氏の研究によれば、日本人について実験して見ると、左右の脳の分担の仕事に欧米型と著し い相違が発見されたという。

日本人の左脳は論理、数学等の西洋的ロジックに加えて、欧米人では右脳で分担する一音一音の母音や、情緒的・感情的な自然界にある音(動物の鳴声や小川のせせらぎ、風や葉の音)から邦楽器音まで含んでいる。

まさに日本人の心を表わすようなユニークな分担となっている。

そして日本人の右の脳は「モノ」で表わされる西洋楽器や機械音などに限られる。
このような日本人の脳の分担の欧米人との相違は肉体的遺伝のためではなく、全く日本語そのものに原因があることが証明されているという(言い換えると、血統的な日本人だからそうなのではなく、生れてから人格形成までの期間に日本語を基調として育ったか否かで脳の分担が決定されるということになる)。

先進国の中では、日本人だけが異質な脳のメカニズムを持っていて、朝鮮・東南アジア諸国・インド、香港の中国人等は完全に西欧人と同じ脳のパターンをしていることが分って来た。


以上がきわめて要約した角田氏の論旨です。

二段階の疑問が湧いて来るのではないでしょうか。

一つは、左と右の脳の分担の優位性の点で同じパターンを持つ先進国と第三世界の人々において、西欧先進国は左脳主導の科学・技術的な文化、他方の第三世界(主に東洋)は右脳主導の情緒的な宗教・芸術的文化という両極端の文化に分れたのは何故なのであろうかということです。

これについては角田氏も結果としての今の状況は見つけられたが、どうしてこうなったかは先の研究を待たなければならないと言っています。

二つ目はこれこそが今回のテーマですが、先進国に属しながらなぜ日本人だけが特異な脳のパターンを持っているのか、そのことに大きな要因となっている日本語はどんな本質を持っているのかということです。


まさしくその要因が日本人とういう先天的な要因ではなく母語の習得にあることを、母語という概念がなかった時代に指摘しているのです。

言語としての日本語の持つ特殊性が大脳生理学としての脳機能にも影響を与えて、世界でも類のない脳機能を作り上げていると言えると思います。

遺伝子的には西洋人であっても、日本的環境において母語としての日本語を身につけた人の脳は日本人と同じように機能することがわかっています。

また、日本人であっても母語としての日本語を身につけなかった場合は、この機能が見られないこともわかっています。

なぜそうなるかについては、いろいろな意見が出ていますが未解決と言っていいでしょう。


しかし、この特殊性は現に存在するのです。

言語分析学の先進分野での研究は進められているようですが、いまだにわからないようです。

ただしこの機能の存在は広く知られており、いろんな分野での日本人への期待は高まる一方です。

いろいろな分野で日本人のこの機能が生きている場面もあるんですね。


直接的な関係があるかどうかはわかりませんが、母語に対する研究が本格的になったころからノーベル賞の受賞者に面白い結果が出ています。

ご存知のように、ノーベル賞の候補者は何年にもわたりそれぞれの分野で話題に上り続けるような人たちであり、ポッと出の人はほとんどいません。

ましてや自然科学の3分野(化学、物理学、生理学医学)では長期間の実績がより重要なことは言うまでもありません。

他の分野(平和賞、文学賞、経済学賞)に比べて自然科学の三分野が評価されるのは仕方のないことなのです。


このノーベル賞の自然科学分野の2000年以降の国別受賞者数をご存知でしょうか。

一位はぶっちぎりでアメリカです。

純粋なアメリカ国籍の人だけではないことはよく知られたことですが。

二位は日本なのです。

しかも全ヨーロッパの合計よりも多いのです。

個性ある独特な理論はいつも注目を浴びます。



日本語についてはまだまだ隠されたチカラがあるようです。

特に自然の理と精神世界と現実的な理論の間では、日本語の持つチカラはこれからの世界を導くものがありそうです。

私たち自身がもっと知る必要があるのではないかと思います。

気づいたところからもっとわかりやすい形にして発信していきたいと思います。



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