2013年8月12日月曜日

日本語思考の特性

思考は母語を中心とした言語でなされている限り、発想や思考はどうしても使用している言語の構造に制限を受けることになります。

ところが日本語においては制限というよりも、長所・特徴ということができるくらい制約が少ない言語になっている思います。

日本語を母語としている私たちは、思考においても日本語の言語としての特徴を持っていることになります。


言語としての日本語の特徴は主に次の3点を挙げることができます。
  1. 漢語の導入によって中国語の言語の特徴を持っている。
  2. 漢字・カタカナでヨーロッパ語・英語への対応をしてきてる。
  3. 外来語に対応しながらも「ひらがな」で古来よりの言語を継承している。
それぞれの時代によっても、様々な日本語の特徴について述べられていますが、一部の資料を取り上げて言及しているものがほとんどです。

日本語が学術的な理論に優れた言語であるという近年の研究もあるようですが、明治以降の現代日本語に限った、しかも相当レベルの高い日本語使いの人の文献に影響されただけと言えます。

また、日本語が省略語が多く抽象表現が多いためにとても曖昧な言語だという研究もありますが、これもまた現代日本語の表現力を見落とした一部の見方と言えます。

上に挙げたように日本語には古来の日本語が持つ特徴以外にたくさんの特徴を持っています。


漢語(中国語)の特徴はその成り立ち・意義を大切にするところにあります。

成り立ちはすべて思想に通じることになり、「五行思想」に行きつくものもたくさんあります。

したがって漢語を中心に置いた思考は「意」を起点とした思考と言えるのではないでしょうか。



それに対して明治以降に取り組んだヨーロッパ語・英語への対応は新しい漢字熟語を生み出し、漢語に新しい意味を与えました。

その結果、ヨーロッパ語・英語がもつモノとして捕えようとする論理的な思考を取り込むことになります。

品詞としても動詞より名詞が圧倒的に多くなっています。

理論や理屈でモノを捕えようとする「知」を起点とした思考と言えると思います。


それらの言語に対して、ひらがなによって外来語から守られ継承されてきた日本語本来の姿は、事象をコトとして捕える抽象性を備えた言語と言えるのではないでしょうか。

「やまとことば」の品詞としては動詞と形容詞が圧倒的です。

日本語の成り立ちとも共通する「情」を起点とした思考と言うことができると思います。



現代日本語はアルファベットまでを含めて、ひらがな、カタカナ、漢字といった文字表現するための手段を持っています。

話し言葉はどれを使ってもひらがな音として聞こえますので、発信者側の意図は口にしたそばから文字としての使い分けは薄れていくことになります。

文字として残す時は、どの文字で表現するかによって思考の特性を表すことができます。

こんなことができる言語は日本語だけではないでしょうか。

文字言語としての柔軟性が思考の柔軟性につながることは言うまでもありません。

しかし、思考の方向性に沿った文字言語を選ばないと、それこそ何を言いたいのか、どう考えているのかが伝わりにくくなります。

単一文字言語の場合は何の問題もなく均一的な思考方法で対応できるのに、思考方法の異なる複数の文字言語を持つことによって苦労する場面が増えるのです。


物事の根源的な思想や自然界の理(ことわり)に関することについては、漢文調の表現が適しています。

縦書きで漢字の音読みが多い表現ですね。

代表例はお経だと思えば分り易いのではないでしょうか。


ビジネス理論や戦略論については明治以降に作られた和製漢語とローマ字・アルファベットによる表現が適しています。

横書きの論文形式と言えば分り易いでしょうか。

散文や小説・物語で人の人情や感情の機微を表現するには、漢字の訓読みとひらがなを中心にした表現が適しています。


こんなことは学校教育では教わりませんし、気づいている人もそれほどたくさんいるとは思えません。

せっかく、科目として古文、漢文、現代文として独立した体系があるのにです。

小学校時代にはさらに「かきかた」「書道」などもあります。

すこし観点を変えただけでとても有用な科目なると思うのですが・・・



最近では、どんどん英語が入ってきています。

感情的なことや情緒的なことを表現するにも、カタカナやアルファベットが使われる場面が多くなってきています。

日本語の特徴的な一番大切な部分、他の言語と一番異なる部分を使用する機会がどんどん減っていっています。

日本語を母語として持つ人の思考の最大の特徴である「情」を起点とした思考をする機会が減ってきています。


一部では日本語の可能性について恐れを抱いた英語圏の指導層が、戦略的に排除していく状況を作っているとも言われています。

彼らの中では日本語と日本人の思考についてはかなりの研究が進んでいると言われています。
(参照:英語圏の言語戦略


これだけの要素・能力を持った日本語を使いこなせるようになることは大変なことです。

他のどんな言語に比べても、とてつもなく大きな言語です。

ほとんどの人は10歳までくらいに使いこなせるようになって来るのです。

それでも、中学を卒業しても日刊紙を読んで理解しきれないことも現実です。

それだけにこの言語を使いこなせることによるメリットは計り知れないものだと思います。


日本語を母語として持つ者にとっては、いくつになっても他の言語は比較的簡単に身につけることができます。

他の言語を母語として持つ者は、生涯掛かっても日本語を使いこなすことはできないと言われています。

日本語を使いこなすだけで、思考の多様性と柔軟性が発揮できるようになります。


日本語は他の言語に翻訳しにくい言語ともいわれています。

単一言語思考の人から見たらそう思えるに決まっています。

ただし、翻訳したい言語や構造がわかれば、それに合わせた翻訳しやすい日本語表現はいくらでもできるのです。

それだけの柔軟性のある言語なのです。

それだけ柔軟性のある思考を可能にする言語なのです。

この言語をうまく使いこなさない手はありませんよね。