古代の「やまとことば」にある動詞はきわめて少なかったと思われます。
漢語が入ってきたときに与えられた訓読みが同じ漢字は、もととなる語源が同じであると考えられます。
漢語の導入以前には文字がありませんから、話し言葉しかありません。
同じ音の言葉を区別する術はありませんから、漢語導入時につけられた訓読みが同じ漢字はもとは同じ言葉であることになります。
動作を表すのが動詞ですので、同じ訓読みを持つ漢字には必ず共通する動作があるはずなのです。
同じ動作(動詞)を異なる漢字の訓読みに充てているので、もともとあった言葉の意味はかなり広い範囲を表す言葉であったことがうかがえます。
たとえば、「かく」という動作を表す訓読みを持つ漢字は、「書く」、「掻く」、「描く」などがあります。
この3つの言葉に共通する動作から、「かく」という動作が手をこするように動かすことであることが想像できます。
もともとの「かく」を漢字の持つ意味に合わせてより詳細に表現した訓読みと言えるのではないでしょうか。
漢字の訓読みが同じものは、継承されていく過程で音に変化が生じていない限りは同じ動作を表
す「やまとことば」を語源としていると思われます。
たくさんある訓読みのひとつとしては「はかる」があります。
漢字を考えてみますと、「図る」「測る」「計る」「量る」「諮る」「謀る」などがあります。
話し言葉しかなかったときは、抽象的なことを表現することはほとんどできなかったと思われています。
これらの「はかる」は2つのグループに分かれます。
一つは「測る」「計る」「量る」の具体的に何かをメジャーする「はかる」です。
もう一つは「図る」「諮る」「謀る」の頭の中で計画する「はかる」です。
この2つグループともそのもととなっているのは具体的に何かを「はかる」ところからきていることは想像できるところだと思います。
第2のグループは頭の中で「はかる」という動作をするようになったと言えると思います。
結局はこれらの言葉もその語源とするところはすべて同じ具体的な動作としての「はかる」なのです。
このように同じ訓読みを持つ漢字は、語源は同じと考えてよいようです。
語源の方が広い意味を持っている動作を表していることがほとんであり、訓読みとしてその言葉を与えられ漢字は、その字が持っている意味と語源とによってより具体的な内容を示していると言えます。
日本語の語彙が豊富な理由の一つがここにもありました。