2013年5月6日月曜日

なりにけるかも・・・

私の日本語に対しての興味は井上ひさしさんの講演録から始まっています。

ちょうど曲を作り始めて、詞になるべく漢字を使わないほうがいいなと思っていたころです。

母音の使い分けについてもなるほどと思うところがありました。


例に出されたのが斉藤茂吉の歌です。

最上川逆白波のたつまでにふぶくゆうべとなりにけるかも

戦争中、空襲で家が焼け戦後しばらく山形の大石田というところに移り住んだときの作品です。

最上川の川べりをいつものように夕方の散歩をしていると、雪が降ってきてそこでできた歌です。

ローマ字で音を書いてみます。

mogamigawa sakasiranamino tatumadeni fubukuyuubeto narinikerukamo


「最上川」は「a」という母音が5音のうち3つです。

「a」という母音は口の中の中心の低いところから出てきます。

したがって、母音の音としては非常に安定して大きいものです。

そもそも「最上川」という名前自体が大変大きくてえらいということになります。


「逆白波」これも大きな音で、6音のうち4つが「a」です。

逆白波とは吹雪が川面にふきつけたときたつ小さな波のことです。

「a」の音が低いところを感じさせてくれます。


「ふぶくゆうべ」は「べ」以外は「u」の母音です。

「u」の音は苦しいときとか耐えているときに腹の底から発せられる音です。

苦しいときに「い~」とは言いませんよね。

6つの音のうち5つが「u」の音でさらに濁音を加えて、耐えている姿をすごい音で表しています。


最後の「なりにけるかも」は「アイウエオ」のすべての音を使っています。

最後の「も」の音の「o」は「a」の音と同じように非常に安定した音です。

同じ母音の重なりで作られたリズムを、最後はきちんと音の並びとして収めているのですね。

 
日本語の母音の一音ずつの持つ響きと、つながった時の響きを感じることのできる歌だそうです。

ちなみに、歌(短歌)を作られる場合には最後に「なりにけるかも」をつけると、音として「決まった!」となるようですのでご利用ください。


同じ母音のつながった音は印象的な言葉が多いようです。
 
人の名前では山田長政がいい例でしょう。
 
すべての音が「a」です。
 
日本史の教科書に登場した時も覚えやすくありませんでしたか?
 
また、大俳優だった長谷川一夫さんの名せりふ「おのおのがた」は「o」の4連発です。
 
忠臣蔵の名シーンとともに記憶に残っていますね。
 
歌でもありますね。
 
「男心に男がほれて・・・」の「おとこごころ」は「o」の6連発です。
 
 
母音だけで発音しても何となく元の音がわかる気もします。
 
もう少し日本語についていろいろな面から見ていきたいと思います。
 
皆さんがもう一度日本語を見直すきっかけに「なりにけるかも」・・・