2015年2月28日土曜日

「あうん」(阿吽)

少し前に、「ん」という仮名について書いてみました。

ひらがなでもカタカナでも、ほかの文字と比べた時に明らかに異質なものである「ん」は、何処から来たものなのかについて少し触れてみました。
(参照:特殊な仮名「ん」


また、つい最近に「二升五合」について書いてみた時には、直接的なつながりはないもののなぜか空海にまで話が広がってしまいました。
(参照:「二升五合」

そこに何らかの感覚が働いていたのかもしれません。

空海が書き残した書物のなかで、「吽字義」(うんじぎ)なる物があると知ったのがすぐそのあとだったからです。

「吽字義」とは、「吽」という字についての解説・解釈をしたものです。

何の前置きや考証の前提ももなく、いきなり「吽」の字の分析をしており、余分な話や字としての重要性などには一切触れることなくただ分析に徹しているものとなっているようです。


「吽」という字に一番馴染みのあるものが「阿吽」(あうん)ではないでしょうか。

阿吽の呼吸(あうんのこきゅう)の阿吽ですし、神社の一対の狛犬の口の形このとです。

片方は口を開けて「あ(阿)」の音を表し、もう片方は口を閉じて「うん(吽)」の音を表しているとされています。

狛犬に限らず、大寺院の仁王門に立つ左右の金剛力士像の「あ形」「うん形」や相撲の立会における「あうんの呼吸」などにも見られるものとなっています。


「あ」はサンスクリット語のアルファベット(字順、悉曇字母)の最初の文字であり、「うん」は最後の文字となっています。

それを漢字で表現したものが、「阿」と「吽」となっています。

当時の日本人のなかで、サンスクリット語(悉曇語、梵字)に一番通じていたのが空海であったと思われます。

それは、仏教の原点となる音であり、漢語に訳された字や音からは分からない本質を追いかける姿勢がもたらしたものであったと言えるようです。

サンスクリット語だけでなく、ヘブライ語にも通じたとされておりその知識は旧約聖書にも及んでいたと思われます。


空海は「阿(ア、a)」はサンスクリットアルファベット(悉曇字母)の最初の字であり、人間が口を開いて発する最初の音であること、「吽(ウン、huum)」はまた口を閉じて発する最後の音であり、この「阿・吽」の2字が一切諸法の「本初」と「究極」の象徴であることを知っていたと思われます。

「吽字義」になかで空海は、まずは字相について述べています。

字相とは、その文字が形としてどんな文字から成り立っているかということになります。

サンスクリット語は表音文字ですので、音素が形に現れます。

「吽」の字を四つの字相に分解し、分解されたそれぞれの文字の持っている意味とその裏にある意義を解釈したものが字義となります。

四つの字義を合わせて解釈をし、見えないところを明らかにしていくことが、「吽」の字義となることになります。


ところが、サンスクリット語(梵字)としての「吽」をどう分解してみても三つにしかならないことが分かります。

ひとつの考え方として、根底に流れていてるものが、すべての字はそこに全ての字のもととなる「あ」を持っているということがあるのです。

最後の音が「吽」になりますが、サンスクリット語の考えでは、最後の「吽」の次には再び「阿」になることになっているようです。


お分かりの通り、これらのことが日本語の仮名の五十音表に大きな影響を与えていることは間違いのないことでしょう。

初めと終わりを示すことによって、あらゆる世界をそこに表現する方法は、様々な言語や文化においても行われていることです。

しかし、それが再び初めに戻ることによって無限の循環を表すことまでに及んでいるものは、それほど多いとは思えません。


この循環が、常に変化し続けることを表し、人自身も損赤の一部であることを基本とする仏教の考え方を表しているものではないでしょうか。

空海は、最澄とともに大州仏教への道を大きく開いた人ですが、それ以前に当代超一級の文化人であったことの方が重要ではないでしょうか。

真理探究の修行を続けながらも、いかなることがあっても完成することがないことを知っていたのだと思われます。


「あうん」については、ぴったりと寄り添ったり、完全なシンクロであったりというような意味にとられがちですが、あらゆることを理解し合った究極の両者の姿ということができるのではないかと思われます。

「ん」の仮名の特殊性から発した話しが、面白いとこまで来ました。

「ん」についても、まだまだ隠れた話が沢山ありそうです。

導かれ出会った時に、また紹介していきたいと思います。




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