2013年5月22日水曜日

「言う」について

先回は「行く」について。

やまとことばの隠れた母音の「ゐ」「ゑ」まで考えてみました。

今回も代表的な言葉である「言う」について考えてみます。

「行く」と比較しながら考えてみましょう。


まず発音してみましょう。

「いう」と「ゆう」ですね。

どうですか、「いう」のほうが口を開いてむりやり発音している感じがしませんか?

「ゆう」のほうが素直に発音できませんか。

そうです。私たちは「言う」に対して感覚的に「ゆう」と発音することに慣れています。

「いう」と発音することのほうが難しいのです。


では「行く」と同じく、パソコンで「言う」と変換するためにはどう入力しますか。

ひらがなで「いう」と入力しますね。

私の使っているの日本語変換ソフト(MS IME)では、ひらがなで「いう」と入力すると「言う」と変換されます。

「ゆう」と入力しても変換候補に「言う」という言葉は出てきません。

「言う」に変換できる読みは入力は「いう」だけでした。

「行く」の時は「いく」でも「ゆく」でも変換できましたよね。

つまり「行く」のひらがな表記は「いく」でも「ゆく」でもどちらでもいいのに対して、「言う」のひらがな表記は「いう」に統一されているということらしいのです。


「行く」の時「行った」「行って」と同様に、「言う」についても「言った」「言って」の場合は「イッタ」「イッテ」と「い」の音になります。

ここまで来るとどうしてもあの「行く」の時の「ゐ」の音を考えざるを得ません。

はっきりとした「ゆう」よりは「い」と「ゆ」の間くらいの音ではないでしょうか。

「言う」「言った」は「ゐう」「ゐった」ではないかと思います。


さて、ここで面倒くさいものを持ってきましょう。

内閣告示・訓令「常用漢字表」「現代仮名遣い」というものがあります。

公式文書や教科書はこの決まりによって表記されます。

これによりますと「行く」の読みには「いく」と「ゆく」の2つがあげられています。

一方「言う」の読みには「いう」しかあげられていません。

かな使いとしては「言う」にたいして「ゆう」とするのは間違いなのです。


さあ、子供たちは何年生くらいでこの「行く」と「言う」を習うのでしょうか?

「行く」を「いく」と読むことは2年生で習います。

でもその時に「ゆく」と読むことは先生次第で習わないことも多いようです。

ここで、「ゆく」と発音するのになんで「いく」と読んで書くのか「?」がでてきます。

ひどい先生になると「いく」と書いて「ゆく」と読みますと平気で教える者もいるそうです。

テストで「行く」に読み仮名を振るときに「いく」でも「ゆく」でも〇になります。


さて、同じく2年生で「言う」を習います。

これの読み仮名は「いう」のみです。

発音は「ゆう」です。また「?」です。

しかも「行く」と違うのは今度は「ゆう」を使うことがが許されないのです。

ダメな理由を2年生の子供たちにわかるように説明できる先生はどれだけいるでしょうか?

2年生というのは7歳か8歳ですね。

脳の発達にとって一番大切な時期です。

きちんとした母語としての日本語を確立するタイミングにこんなことが起こります。


「行く」と「言う」は音は短いですが極めて重要な言葉です。

やまとことばの中核をなす言葉であると同時に、現代でもとても使用頻度の高い言葉です。

この大事な言葉に対して小学校2年生でこんな教え方をされているのです。

私も同じように教わったはずなんですがあまり記憶にないですね。

たぶん、まじめに聞いていなかったのでしょう。

日本語のきわめて使用頻度の高い特徴的な言葉であり、やまとことばをつなぐ大切な言葉を母語形成の大切な時期にきちんと学べないのです。

でも、すごいですね。

私たちはそれでも母語としての日本語を身に着けていくうちに、「行く」「言う」についての音や読みがなの感覚を持ってくるようになるのです。

使い分けをしているのです。

母語である日本語全体が持っている感覚の中で「行く「「言う」の特殊性についても、自然に受け入れられるし使いこなせるようになるのです。


母語としての言葉は思考そのものです。

母語でしか思考はできないのです。

日本語を母語とすることの特徴をもう少し見つけ出したいと思っています。

興味を持ってくれる人が増えてくれるとうれしいなと思います。








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