日本語の母音は5つあります。
「あ、い、う、え、お」の5つですが、昔は8つあったといわれています。
どんな音があったのかまでは確認できていないが、興味あるところです。
そういえばアナウンサーや役者の発音練習の「あ、え、い、う、え、お、あ、お」は8音ありますが、関係があるのかないのか・・・。
この母音5音がそれぞれの音によって伝わり方が異なるようです。
初めてそのことを知ったのは大学の大先輩である井上ひさし先生の話を聞いた時でした。
井上先生は小説家を目指していましたが、学生の時に大江健三郎さんの著作に出合い「小説はこの人に任せた。」と、舞台作家のほうへ転身したそうです。
舞台用の本を書いているうちに、どんなにうまい役者さんがしゃべっても客席の奥まで届きにくい音があることに気付いたそうです。
それが母音によって区分できることとその理由も見つけられました。
よく届く音の順番に「い、え、あ、お、う」となります。
口の中の先のほうで発せられる「い」音から順番に少しずつ発せられる場所が奥のほうへ移っていきます。
声に出してみたらまさしくそうでした。
「い」の母音のものは誰が発しても聞き取りやすく、ほとんど正確に伝わります。
「う」の母音のものは口の一番奥(喉の奥のほう)で発せられますから口から出るまでに籠ってしまいかなりの部分が消されてしまいます。
井上先生の作品で登場する銀行は、三菱銀行に決まっていました。
「み、つ、び、し」で4音のうち3音も「い」の母音を持っています。
客席の後ろまではっきりと伝わったそうです。
ためしに住友銀行でやってみたところ、初めの「す」の母音「う」がほとんど聞こえず「みとも銀行」としか聞こえなかったそうです。
東京三菱銀行になったときは困ったそうですが・・・。
曲つくりをしている私はこのことを知ってから、歌うときに少し気を付けていることがあります。
「い」の母音で始まる言葉の時は少し優しく音を出すようにし、「う」の母音で始まる言葉の時はしっかりと発音するようにしています。
意識し始めてしばらくしたころ、頻繁に通っているフォーク酒場のマスターに
「歌がうまくなった気がする。言葉がよく伝わるようになった。」と言われました。
作る曲の歌詞もできるだけ「う」で始まる言葉は最初に持ってこないようにしています。
ネット環境が広がって書くことが増えてくると、直接会って話すことがどんどん減ってきます。
せっかく直接話せる機会にきちんと想いを伝えるためにも、言葉はしっかりと発したいですね。
それでなくとも、筋力が衰えて口の動きが悪くなってきています。
モゴモゴして言葉が聞き取りにくくなっているのだからなおさら気を付けないといけないな。