文字のない時代に話されていた言葉の音を書き表すために、漢語から生み出されたものが「ひらがな」です。
「ひらがな」の原型を見ることができる資料は万葉集ということになるのだと思いますが、いわゆる万葉仮名は漢語の持っている音を文字のなかった言葉である「古代やまとことば」に充てたものとなっています。
その文字の中に、現代のひらがなの音に対して複数の漢語が充てられているものがいくつかあります。
「え、き、け、こ、そ、と、の、ひ、へ、み、め、よ、ろ」の13音と、その中での濁音である「ぎ、げ、ご、ぞ、ど、び、べ」の7音の合計20音については、それぞれ二通りの書き方があることが解明されています。
現代ひらがなの音数は以下の表のとおり、「ん」を入れても46音となっています。
これに濁音のか行、さ行、た行、は行を加えると66音となっています。
万葉集が書かれたとされる奈良時代には、今の66音に加えてさらに二通りの書き方のあった20音が加わった86音があったのではないかとする説があります。
今の私たちが使っていない音があったかもしれないことは、十分に考えられます。
また、今の私たちが使っている66音については「ん」を除いて、すべて充てられた漢語が確認されています。
「ん」については以前に特殊な文字として触れたことがあるので参考にしてください。
したがって、現在私たちが使っている66音については、万葉集の時代には全て存在していたと思われます。
その上にさらに、異なる音を持っていたのではないかと推測されます。
上記の五十音表を眺めると、どうしても気になるところが出てきませんか?
「ん」は最後に追加された文字であり、「いろは」には含まれていませんので、欄外としての扱いは理解できるのですが、それ以外のすきまが気になりませんか?
や行とわ行の隙間ということになります。
「ん」を除けばひらがなの音はきれいに子音+母音という形になっています。
ローマ字的に表すとあ行が母音だけとなり「a,i,u,e,o」となります。
か行以降はその母音の前に「k,s,t,n,h,m,y,r,w」がついた形で、きれいに収まります。
そのように考えると隙間を想像することができます。
や行の抜けている2音は「yi,ye」となり、わ行の抜けている3音は「wi,wu,we」となることになります。
これらの音は現代ひらがなではそれぞれ「い、え」「い、う、え」として置かれています。
これらの「い、う、え」に対して、先の万葉集の二通りの書き方にあたる音があればきれいに収まるのですが、当てはまるのは「え」だけになります。
「いろは」のなかに一つのヒントがあります。
「いろは」は「ん」を含んでいませんが47文字(音)でできています。
現代ひらがなよりも2文字(音)多いのです。
少し前まではよく見かけていたのですぐわかると思いますが、「ゐ」と「ゑ」ですね。
現代ひらがなの音で言えば「い」と「え」ということになるのでしょうが、つい最近まで「い」「え」と「ゐ」「ゑ」は使い分けをされていたことを考えると、どうしても音が違っていたと思わざるを得ません。
現代ひらがなの埋めたい空欄には、「い」「え」として収められる場所がそれぞれ2か所あります。
「ゐ」「ゑ」はその使われ方や動詞に使われたときの変化の仕方から、わ行に置かれることが一般的となっているようです。
音としてのローマ字表記としては「wi,we」ということになりますね。
そうなると、「yi,ye」の方もなんとかしたくなります。
万葉集の二通りある書き方の音に戻ってみましょう。
母音の「i,e」を含む音を見つけてみます。
「え、き、け、ひ、へ、み、め」ですね。
こうしてみるとわかると思いますが、二通りの書き方を持つ音の母音は、「i,e,o」の三種類に限られています。
これも何かのヒントになりそうですが、いつかは検討してみたいことです。
さて、「え、き、け、ひ、へ、み、め」のなかで「yi,ye」の音に一番近い音はどれになるでしょうか?
声に出して見るとわかりますが、明らかに「ひ、へ」が一番近い音と言えます。
残念ながら、どんな文字として残っているかまでは見つけられていませんが、可能性はあるのではないでしょうか。
「wu」についてはまだ手掛かりが見つかっていません。
何かの拍子にヒントが見つかるといいなと思います。
たまには、五十音表をながめていろいろ想像してみるのもいいのではないでしょうか。
きれいに並んだところに隙間があると、埋めたくなるのが自然な感覚ですよね。