一回目は日本語の伝わり方が「ひらがなの音」によるものであることを確認したうえで、私なりの「ひらがなの音」の練習の仕方をお伝えしました。
二回目にでは「ひらがなの音」で伝えるためには「現代やまとことば」がいかに有効であるかということをお伝えしました。
三回目の今回はきき手の行なっている人の話しを理解するための活動を知ることで、きき手の行なっている活動をサポートする方法についてお伝えしたと思います。
- 「ひらがなの音」をしっかり発声する (参照:日本語で伝えるための技術(1))
- 「現代やまとことば」を使う (参照:日本語で伝えるための技術(2))
- きき手の「きく」活動をサポートする
きき手がどのようにして「ひらがなの音」から理解していくかについては”「きく」の五段階活用”としてじっくりと見てきました。
(参照:「きく」の五段階活用(1)・・・聞く)
その中で役に立ったのが動詞としての「きく」と読むことができる訓読みの漢字でした。
「聞く」「聴く」「利く」「効く」「訊く」の五段階として「きく」活動を理解することに大きな助けとなりました。
きき手が行なっている理解するための活動が今どの段階にあるのかを理解して、それぞれの活動の段階に適したサポートを伝える側がしていく必要があります。
まずは「ひらがなの音」を確実に伝えることが大切になります。
日常的には「ひらがな音」で伝わっていることを意識することはないと思われるので、大切なことを伝えるときに思い出すだけでも伝わり方が違ってくると思います。
どんなに体裁の良い言葉ばかり並べてみても言葉自体が伝わらなければ意味がありません。
書くときには誰でもが気をつけている句読点と文字の間隔を話し言葉でも伝えていきたいところです。
特に音数の少ない言葉はしっかりと伝えることが大変難しいものとなります。
その中でも母音の「う」や「お」で終わる音はとても伝わりにくいものとなってしまいます。
戸(こ、と)、酢(す)、巣(す)、麩(ふ)、藻(も)、野(の)などの名詞だけでなく助詞や接続詞なども単音で使用される場合が少なくありません。
接続詞はきき手が論理を理解するための推測にとても役に立つものになりますので、否定の「が」を使う場合には「が、しかし」のように音数を増やしてはっきりと否定であることを伝えていきたいものです。
意味もなく順接の「で」が口癖になっている人を見かけることがありますが、本人が思っているよりもキツイ音になっていることが多く耳障りになることがあるので注意したいところです。
「ひらがなの音」をはっきりと伝える段階である「聞く」や「聴く」の段階では、発音や切れ目としての句読点の間などがきき手の役に立つことになります。
まずは「ひらがなの音」から「ことば」としての音を正しく伝えるように工夫をしなければなりません。
さらに同じ言葉であっても「ひらがなの音」として伝わりやすい言葉としての「現代やまとことば」を使いこなすことによってきき手の理解をより確実なものとしていくことができます。
このことは「利く」の段階にも役に立つことになります。
さらに「効く」の段階においては語尾の変化や助詞や接続詞の使い方できき手の推測を助けることができるようになります。
きき手が行なっている「きく」の段階によってもいろいろな工夫を使い分けしなければならないことになります。
それだけ話し言葉として伝えることの伝わりにくさに多くの原因があるということになると思います。
実際の場面をよく思い起こしてみてください。
とっさの場面で文字を利用できる環境がどれだけあるでしょうか。
ほとんどの場面では話すことでしか伝えることができないのではないでしょうか。
言語情報の80%は聴覚によって得ているとまで言われています。
しっかりと事前に準備をして伝えるべき相手が持っている言葉を確認できてから話をできる環境などほとんどないのではないでしょうか。
相手が持っている言葉を意識することすらなく、自分の言葉を使って勝手に伝わったつもりになっていることがほとんどではないでしょうか。
「ひらがなの音」を意識することで相手が持っている言葉にかかわらず、日本語を母語とする人ならば誰でもが同じように理解できる「現代やまとことば」を考えることができるようになるのです。
話すことに比べると「きく」という活動はとんでもなく多くの知的活動を行なっていることは今まで見てきたとおりです。
聞いて理解するということが日本語の伝え方としては標準的なパターンとなっているものです。
どのように理解しているのかを知っておかないとより理解しやすい伝え方というものを考えることができません。
きき手が行なっている理解する段階によっても伝える側が気を付けるべきポイントが変わってくることになります。
また、きき手の活動はつねに段階を追って順番に流れているわけでもありません。
伝える側は自分勝手な論理と言葉でたたみかけてきますので、きき手のほうではそれぞれの段階を行ったり来たりしながら理解していくことになります。
それだけに、伝える側としてはきき手の行なっているであろうと思われる段階に応じた伝え方をしていく必要があります。
きき手が論理の展開を理解しようとしている段階にいるのに、「ひらがなの音」をきちんと伝えるための対応をしていると馬鹿にされていると感じることにもつながることになります。
伝える側のスタンスとしてはどんな場面においてもきき手の「訊く」という活動を受け入れるという態度が必要になります。
きき手に「訊く」という機会を与えることは伝える側の役割になります。
きき手が行なっている「きく」の段階は伝える側からは分かりにくいものとなりますので、きき手の「訊く」という行為によって確認することしかできないのです。
具体的に言葉を発して「訊く」場合もあるかもしれませんが、非言語による「訊く」に対しても感覚を研ぎ澄ませておく必要があります。
きき手のうなずきや首をかしげるなどの自然な行為に対して注意を払っておく必要があることになります。
これをさぼって伝える側の一方的な思い込みでの対応はかえって伝わりにくさを招いてしまうことになります。
ここまで見てくると伝えることときくことはそれぞれ独立した活動ではなく、伝えるときにはきき手の「きく」活動を意識していなければなりませんし、「きく」ときは伝える側の活動を意識していなければいけないことになります。
一人ひとりが持っている言葉は同じく日本語を母語としても決して同じものではありません。
同じ言葉であってもその定義については異なっていることのほうが多いことになります。
本来ならば伝えるべき相手の持っている言葉を分かったうえで相手の言葉とその定義を使って伝えることが一番理解しやすいことになります。
しかし、伝える相手の持っている言葉を掴み切ることは不可能です。
現実には相手の持っている言葉と定義だろうと思い込んで使った言葉によるミスがほとんどです。
日本語には国語として習得した言葉とその定義以外にも、母語として日本語を持っているだけで共通理解ができる言葉が存在しているのです。
それは世代にも生活環境にも影響されることなくほとんどの人が同じ解釈ができる言葉なのです。
日本語の基本語とも言うことができる「現代やまとことば」で、どんな場面でも安心して伝えることができるようにしておきたいものです。
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